行方不明の相続人がいるときはどうする? 遺産相続の正しい進め方
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裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に静岡家庭裁判所に請求があった不在者の財産に関する処分は145件で、失踪の宣告および取消しは38件でした。いずれも行方不明の相続人がいる場合に利用される手続きであるため、この統計からは、相続人に行方不明の方がいる事案が静岡でも一定数存在したことがわかります。
原則として、被相続人の遺産は、相続人たち全員が参加する遺産分割協議で分けていくことになります。しかし、相続人のなかに行方不明の人がいる場合には、連絡がとれず遺産分割協議に参加してもらうことができなくなってしまいます。
本コラムでは、行方不明の相続人がいる場合の遺産相続の進め方や対処法について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、行方不明の相続人がいても遺産分割協議は進められる?
まず、行方不明の相続人がいる場合に遺産分割協議を進行することが可能であるかについて解説します。
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(1)遺産分割協議は相続人全員の合意が必要(民法907条1項)
遺産分割協議とは、被相続人の遺産をどのように分けるのかを相続人が話し合う手続きのことをいいます。
被相続人が遺言書を作成していれば、遺言書の内容に従って遺産を分けることになりますが、遺言書がない場合には、遺産分割協議によって被相続人の遺産の分け方を決める必要があります。
遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員で行わなければなりません。
行方不明などの理由で、ひとりでも相続人を欠いた場合には、遺産分割協議は無効になります。 -
(2)相続人の調べ方
遺産分割協議は相続人全員が参加して行うものであるため、前提として、「だれが法定相続人であるか」ということを確定させる必要があります。
法定相続人の確定する方法としては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍謄本を取得して行う方法が一般的です。
民法では、以下の順位で法定相続人が定められています。
戸籍の記載を確認しながら、だれが法定相続人にあたるのかを確認していきましょう。- 配偶者(常に相続人になる)(民法890条)
- 子ども(第1順位)(民法887条1項)
- 両親(第2順位)(民法889条1項1号)
- 兄弟姉妹(第3順位)(民法889条1項2号)
相続人が確定したら、次は相続人に連絡をして遺産分割協議への参加を求めることになります。
連絡先がわからない場合には、戸籍の附票を取得すればその相続人の住所を把握することができるため、手紙などで連絡をとるとよいでしょう。
戸籍の附票に記載されている住所に住んでいないという場合には、行方不明の可能性があるため、遺産分割の手続きを進めるには、後述するような対処法を実施する必要があります。
2、行方不明の相続人がいるときの対処法
以下では、行方不明の相続人が存在する場合にとれる対処法について解説します。
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(1)前提:行方不明の相続人がいても、相続登記は可能だが…
行方不明の相続人がいる場合には、遺産分割協議を進めることはできませんが、不動産を法定相続分に従って相続登記することは可能です。
ただし、不動産は行方不明の相続人も含めた共有状態となりますので、そのままでは売却することはできません。
結局は問題を先送りにしているだけともいえるので、以下に述べる、行方不明者の財産の管理人の選任や失踪宣告の請求が必要になるでしょう。 -
(2)対処法 ①:不在者の財産の管理人の選任を請求
戸籍の附票に記載されている住所に手紙を送ったものの「あて所に尋ねあたりません」とハンコが押されて戻ってきてしまった場合には、家庭裁判所に不在者の財産の管理人(以下、「不在者財産管理人」といいます。)の選任の請求を行いましょう。
不在者財産管理人とは、行方不明になっている人の財産を代理して管理する人のことをいいます。
選任された不在者財産管理人は、いわゆる「管理行為」(民法103条に規定された権限(保存・利用・改良行為))を超える行為を行う許可を家庭裁判所より受けることによって、遺産分割協議に参加することができます(民法28条前段)。
行方不明の相続人がいる場合でも、不在者財産管理人を加えて遺産分割協議を行えば、有効に遺産分割協議を成立させることができるのです。
なお、不在者財産管理人と混同しやすい制度として、「相続財産管理人」という制度があります(民法952条)。しかし、これは、被相続人の死亡時点において相続人の候補となる人物が全て死亡している、或いは相続欠格、廃除、相続放棄等の事情により、相続人となる者がいない場合に適用されるものであり、今回のような相続人の一部が行方不明である場合とは、適用範囲が異なりますので、注意が必要です。 -
(3)対処法 ②:失踪宣告の請求
行方不明になっている相続人の生死が、最後に確認されてから7年以上不明な状態である場合には、利害関係人は、家庭裁判所に失踪宣告の請求をすることができます(民法30条1項)。
生死不明になったときから7年が経過した時点で失踪宣告の請求をすることができるようになり、家庭裁判所で失踪宣告が言い渡されると、生死不明になったときから7年を経過した時点で死亡したものとみなされます(民法31条)。
失踪宣告によって、行方不明の相続人は、法的には死亡したものとみなされます。
そのため、当該相続人を除いて遺産分割協議を進めることが可能になります。
3、遺産相続の手続きを進める前に知っておくべき注意点
行方不明の相続人がいるケースで遺産相続の手続きを進める場合には、以下の点に注意してください。
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(1)不在者財産管理人の選任について:予納金が必要
不在者財産管理人の選任を行うためには、家庭裁判所に予納金という費用を納めなければなりません(民法29条)。
予納金の金額は、家庭裁判所が判断することになりますが、20万円から100万円程度かかることもあります。
不在者の財産が十分にある場合には、予納金が不要になったり低額で済んだりすることもありますが、そうでない場合には、高額な予納金の納付を命じられる可能性がある点に注意が必要となります。 -
(2)失踪宣告について:遺産分割協議中と協議後
ア 遺産分割協議中:相続権が移る
失踪宣告によって、当該相続人は死亡したものとみなされる(民法31条)ため、当該相続人を被相続人とする新たな相続が発生します。
失踪宣告を受けた相続人に配偶者や子どもがいる場合には、配偶者や子どもに相続権が移るため、遺産分割協議は当該相続人の配偶者や子どもを加えたうえで進行する必要があります。
イ 遺産分割協議後:失踪宣告の取消しにより、行方不明者の相続権が復活する
失踪宣告を受けた相続人の生存が後日に確認できた場合には、本人または利害関係のある人が家庭裁判所に失踪宣告の取消しを請求することができます(民法32条1項)。
失踪宣告の取消しにより、はじめから失踪宣告がなかったものとなるので、失踪宣告を受けた相続人の相続権は復活します。
ただし、すでに遺産分割を終えている場合には、すべてをやり直すのは難しいため、現に利益を受けている限度でのみ財産を返還すれば足りる、とされています(民法32条2項)。
4、遺産相続の悩み事を弁護士に相談するメリット
以下では、遺産相続に関するお悩みを弁護士に相談するメリットを解説します。
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(1)行方不明の相続人がいる場合における、相続人の調査等をサポート
始めに、本稿で述べている、行方不明の相続人がいる場合を念頭に置いたメリットから紹介させていただきます。
前述のとおり、遺産分割協議を進める前提として、だれが相続人にあたるのかが問題となります。これを行うために必要となるのが、相続人調査です。
相続人調査に漏れがあると、遺産分割協議が無効になってしまいます。
専門家である弁護士に依頼すれば、豊富な知識や経験を活かして、迅速かつ正確に相続人調査を行うことができます。
また、行方不明の相続人がいる場合には、遺産分割協議を始められるように、前述した不在者財産管理人の選任及び失踪宣告の請求の内、それぞれの依頼人の皆様の実情に最も適合した手続をご案内の上、お手伝いすることができます。 -
(2)迅速かつ適切に遺産分割協議を進めることができる
また、行方不明の相続人がいる場合に限らず、一般論としていえることですが、遺産分割協議そのものとの関係でも、弁護士に依頼することには、以下のようなメリットがあります。
ア 相続財産の調査
遺産分割を始めるに当たっては、他にどのような遺産があるのかという問題もあります。これを解決するために必要となるのが、相続財産調査です。
相続財産調査で漏れがあると、漏れた遺産を対象として再度遺産分割協議を行わなければなりません。
弁護士に依頼することで、迅速かつ正確に相続財産の調査を行うことができます。
イ 相続人間の対立の調整
前述のとおり、遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。
しかし、ほかの相続人たちと疎遠な相続人や不仲な相続人がいる場合には、警戒されてしまったり、感情的な対立が生じたりするなどして、遺産分割協議の進行に支障が生じてしまう可能性があります。
このような場合には、弁護士が相続人の代理人として遺産分割協議に参加することで、トラブルを予防することができます。
弁護士が丁寧に経緯を説明することで、疎遠な相続人からも納得が得られやすくなるでしょう。
また、当事者同士では感情的な対立が生じる場合でも、第三者である弁護士が窓口になることで、冷静に話し合いを進めることが期待できます。
ウ 有利な条件で遺産分割協議を成立させることが期待できる
相続人には法定相続分があるため、基本的には法定相続分に従って遺産を分けていくことになります。
しかし、生前に被相続人から多額の贈与を受けた相続人がいる場合には、特別受益の持ち戻しを主張することによって、より多くの遺産を確保することが可能です(民法903条1項)。
また、生前に被相続人の療養看護などに努めたという事情がある場合には、寄与分を主張することによって、多くの遺産を受け取れる可能性があります(民法904条の2第1項)。
このように、遺産分割協議においては、特別受益や寄与分といった制度を利用することによって、被相続人の生前における依頼者及び他の相続人との関係性を反映させ、依頼者により有利な内容で遺産を分けることが可能になります。
これらの制度を利用するには、法律の知識も必要となりますが、専門家である弁護士に確認することで、適切に利用することができるでしょう。
5、まとめ
相続人のなかに行方不明の人がいる場合には、そのままでは遺産分割協議を進めることができません。
このような場合には、行方不明の状況や期間に応じて、不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった制度を利用すれば、行方不明の相続人がいたとしても遺産分割協議が可能になります。
行方不明の相続人がいてお困りの方は、適切な対処法を実施するために、まずは弁護士に相談しましょう。
遺産相続に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています