遺産分割協議と遺留分侵害額請求は別制度! 制度の違いと請求方法

2024年07月22日
  • 遺産を受け取る方
  • 遺産分割協議
  • 遺留分
遺産分割協議と遺留分侵害額請求は別制度! 制度の違いと請求方法

沼津市が公開している令和5年版の統計情報によると、令和4年中に亡くなった方の数は3467人となっており、年々増加傾向にあります。ご家族が亡くなり、いざ遺産分割をするという局面で、他の親族から不公平な分割案を押し付けられた場合どうすればいいのでしょうか。

遺産について到底納得できない内容を「生前の故人の意向だから」と押し切られてしまった場合は「遺留分侵害額請求」という制度を利用できる可能性があります。

本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・ 遺産分割協議と遺留分侵害額請求の概要
・ 遺産分割協議の内容に納得できない場合の対処法
・ 遺留分請求や遺産分割トラブルの相談先

他の相続人から納得できない遺産分割案を提案されて、どうすればいいかわからない方などに向けて、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説していきます。

1、遺産分割協議と遺留分侵害額請求は別の制度

相続において、遺産を円滑に分配することはときに困難です。遺産分割協議、相続人の最低限の取り分である遺留分を侵害されたときの対策について解説します。

  1. (1)遺産分割協議とは

    遺産分割をするために、相続人の間でなされる話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。「遺産分割」とは、遺産の共有状態を解消して、相続人の間で個々の相続財産の権利者を確定することです。

    そもそも相続とは、人の死亡を原因として被相続人(亡くなった方)の財産を相続人に承継させる制度です。

    相続人は、相続開始の時から被相続人の財産に属した「一切の権利義務」を承継することになりますが(民法第896条)、相続人が数人いる場合に相続財産は「共有」となります(同898条)。

    つまり相続のために、遺産分割は必要かつ重要な手続といえます。

  2. (2)遺留分侵害額請求とは

    「遺留分」とは、遺言の自由を制限して、一定の相続人のために法律上必ず留保されなければならない持分のことをいいます。遺留分を保障する目的は、被相続人の財産に依存して生活してきた配偶者や子どもの生活保障や、財産形成に寄与・貢献してきた相続人の実質的な共有持分の確保です。

    相続人の最低限度の取り分として、法律によって遺留分が保障されているのです。

    遺留分を侵害された遺留分権利者やその承継人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条1項)。

    これを「遺留分侵害額請求権」といいます。

    遺留分侵害額請求の対象となるのは、被相続人による遺贈・生前贈与・死因贈与です。したがって、遺産分割協議で他の相続人から不公平な遺産分割協議案が提出されたからといって、これに対して遺留分侵害額請求ができるわけではありません。

    また、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与があったことを知った時から「1年間」行使しない場合、時効によって消滅します。加えて、相続開始の時から「10年」を経過した場合も時効消滅します(民法第1048条)。

2、遺留分を請求できる人・できない人

遺留分は誰でも請求できるわけではありません。特定の相続人にのみ与えられた権利です。以下、遺留分の対象となる人について解説します。

  1. (1)請求できる人

    遺留分を請求することができる人は、以下の相続人です。

    • 亡くなった方の配偶者
    • 亡くなった方の子ども
    • 亡くなった方の直系尊属(父母、祖父母など)


    上記の遺留分権利者となる相続人は、以下の割合で遺留分を請求できることになります(民法第1042条1項)。

    • 直系尊属のみが相続人である場合:遺産の3分の1
    • 上記以外の場合:遺産の2分の1


    そして相続人が数人いる場合には上記の割合に、各自の法定相続分を乗じた割合になります(同条2項)。

    「上記以外の場合」としては以下のようなケースがあり得ます。

    • 相続人が亡くなった方の子ども(代襲相続人)だけのケース
    • 相続人が亡くなった方の子ども(代襲相続人)と亡くなった方の配偶者のみのケース
    • 相続人が亡くなった方の配偶者だけのケース
    • 相続人が亡くなった方の配偶者と直系尊属だけのケース


  2. (2)請求できない人

    亡くなった方の兄弟姉妹、甥・姪には遺留分がありません。

    また、相続欠格者、相続廃除者、相続放棄者についても遺留分侵害額請求をすることはできません。

    相続欠格者とは、故意に被相続人や相続人を死亡させようとしたり、詐欺や強迫によって被相続人の遺言をさせ・撤回させたりした相続人です。

    相続廃除者とは、被相続人を虐待・重大な侮辱、その他著しい非行があったとして相続権を喪失させる家庭裁判所の審判がなされた相続人です。

    相続放棄者とは、自己の意思で相続を放棄した相続人です。

    これら相続欠格者・相続廃除者・相続放棄者については、相続権が喪失したことによって遺留分権も喪失したことになるため、遺留分侵害額請求をすることはできません。

3、遺産分割協議の内容に納得できない時の対処法

遺産分割協議の内容に納得できない場合の対処法について解説します。

  1. (1)署名押印をしない

    他の相続人から提出された遺産分割案の内容に納得できない場合は、その遺産分割協議書に署名・押印してはいけません。

    納得できてないにもかかわらず、合意書に署名・押印してしまうと有効な遺産分割が成立したとして事後的に撤回することが難しくなります

    成立した遺産分割をやり直すためには、相続人全員が合意した場合や、詐欺や錯誤などの取り消し事由があったと主張できる場合でなければなりません。

    とりあえず署名・押印したものの、よくよく考えると自分に不利な内容だったと気づき分割協議のやり直しを要請しても、後の祭りとなってしまうリスクがあります。

    遺産分割の内容がよくわからないという場合や分割案に納得できないという場合には、相続問題の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)異論がある旨を伝えて話し合う

    ほかの相続人から提案された遺産分割案に異論がある場合には、その旨をしっかりと伝えて話し合いを行うことが重要です。

    とくに被相続人の相続財産の中で、自分がぜひとも承継したい財産がある場合などはそのことを共同相続人に伝えて、新たな分割案を作成することが大切です。

    たとえば、これまで被相続人と同居を続けていた土地・建物にこれからも住み続けたいという場合や、被相続人から有償・無償で借り受けていた自動車などの動産を譲り受けたいという場合には、ご自身が被る不利益を適切に相手に伝えることも重要でしょう。

  3. (3)遺産分割協議をやり直す

    遺産分割案に納得できない場合には、遺産分割協議をやり直すことを要請しましょう。

    遺産分割の内容については、「遺産分割自由の原則」があります。これは、相続人は、各相続人の法定・指定相続分や分割基準に拘束されることなく、合意さえととのえば自由に分割処分することができる、というものです。

    また、すでに不公平な遺産分割協議がなされた場合であっても、相続人全員が合意すれば遺産分割協議を合意解除することもできます。

  4. (4)調停や審判を申し立てる

    当事者間で遺産分割協議がととのわない場合や、話し合いをすることができない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停・審判の申し立てをすることができます(民法第907条2項)。

    遺産分割調停で合意が成立し、調停調書に合意した内容が記載された場合、この記載は審判の確定と同じ効力があることになります

    もし遺産分割調停が不成立に終わった場合は、自動的に審判の申し立てがあったとみなされて遺産分割審判がなされます。この場合、家庭裁判所は相続人の相続分や分割の基準(民法第906条)にしたがって判断することになります。

  5. (5)遺産分割訴訟はできない

    遺産分割については、訴訟(民事裁判)はありません。遺産分割は、親族間で起きることがほとんどであることから、裁判ではなく話し合いによる解決が求められる、という解釈がなされているためです。

    ただし、相続権の存在や相続財産の範囲、遺言書の有効性などに争いがある場合には、訴訟によって解決しておく必要があります。

4、遺留分請求や遺産分割トラブルは弁護士にご相談を

遺留分侵害額請求権や遺産分割トラブルについて弁護士に依頼することには、以下のようなメリットがあります

  1. (1)当事者と直接話し合う必要がない

    依頼を受けた弁護士は、依頼者の代理人として、他の相続人に遺産分割のやり直しや遺留分侵害額請求をしていきます。そのため、直接、他の相続人とやり取りをしたり、交渉をしたりする必要がありません。

    代理人弁護士が間に入って手続きを進めていきますので、実務的な手続きに加え、精神的な負担も大幅に軽減されるでしょう。

  2. (2)不利な条件を飲まされるリスクを軽減できる

    弁護士に依頼することで、不利な条件を飲まされるリスクも軽減できます。弁護士であれば、依頼者の意向を踏まえて利益が最大化するよう、相手方に対して適切な主張・反論を行います。

  3. (3)調停や訴訟になっても対処してもらえる

    調停手続きや訴訟手続きになった場合であっても、はじめから弁護士に依頼していれば引き続きスムーズに対応を任せることができます。

    裁判手続きに対する対応や、必要書類の作成・提出などについてもすべて一貫したサポートが可能なため安心です。

5、まとめ

この記事では、遺産分割協議に納得できない場合の対処法や、遺留分侵害額請求の制度について解説してきました。他の相続人から納得できない遺産分割案を提案された場合には、ご自身の言い分を適切に相手に主張していくことが重要です。

うまく主張できるか不安という場合には、早めに弁護士に相談・依頼することで、スムーズな解決に至る可能性が高まります

ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスには、相続事件について知識・経験のある弁護士が在籍しております。まずは一度ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています