特別受益の計算方法|特別受益に該当しないケースや相続争いの対処法
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沼津市が公表している令和5年版の統計によると、令和4年の死亡者数は2922人でした。つまり、それだけ多くの相続手続きが必要となり、ときには相続争いが発生したと推測されます。
特定の相続人が利益を得ている「特別受益」がある場合、相続争いが起こる可能性が高いといえます。相続争いを回避するためには、特別受益分を正しく計算し、適切に遺産分割を進めることが重要です。
そこで、今回は、特別受益の意味や計算方法、相続争いの対処法について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、特別受益とは?
特別受益とは、複数の相続人のうち、特定の相続人のみが生前贈与、遺贈、死因贈与などで受けた利益をいいます。
特別受益は、生前の贈与だけでなく遺贈や死因贈与も含めて、特定の人に財産の贈与等があった場合に、認められる可能性があります。この特別受益を受けた人のことを「特別受益者」といいます。
特別受益者が得た財産は、相続財産の一部にあたります。そのため、遺産分割時には、特別受益によって譲渡された財産も計算に入れ(「持ち戻し」といいます)、相続人間で遺産分配をすることが重要です。こうした特別受益にまつわる制度は民法903条に規定されています。相続財産については、これとは逆に被相続人の財産の維持や増加に寄与した相続人がある場合には寄与分を控除します(民法904条の2)。平たく言えば、被相続人が亡くなった時点の相続財産に「特別受益」を足して、「寄与分」を引いた金額が遺産分割の対象となる相続財産になります。
2、【具体的に解説!】特別受益の計算方法
特別受益の計算は、「みなし財産」と「遺産分割の計算」の2つの軸から算出します。以下、2ステップにわけて解説します。
(寄与分は無いと仮定します。)
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(1)ステップ1|みなし財産を計算する
みなし財産とは、相続開始時の総額財産に、特別受益にあたる生前贈与の額を足した金額のことをいいます。
みなし財産=相続開始時の総額財産+特別受益にあたる生前贈与
なお、遺贈や死因贈与で特別受益があった場合、遺産分割前の財産として「相続開始時の総額財産」に含めて計算します。
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(2)ステップ2|相続分を計算する
みなし財産の計算ができたら、次に各相続人の遺産分割の金額を計算します。
特別受益者ではない相続人の計算
遺産分配金額=みなし財産×法定相続分の割合
特別受益者である相続人の計算
遺産分配金額=(みなし財産×法定相続分の割合)−特別受益の財産額
なお法定相続分とは、民法上で定められた、各相続人の相続割合のことをいいます。たとえば、配偶者は常に遺産全体の1/2を相続する権利を持ち、子どもは残りを均等に分割します。
したがって、妻と子ども3人が相続人の場合、法定相続分の割合は下記の表の通りです。
配偶者(妻) 全体の1/2 子 全体の1/6 子 全体の1/6 子 全体の1/6 参考:「相続人の範囲と法定相続分」(国税庁)
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(3)特別受益計算の参考例
以下の参考ケースをもとに、特別受益の計算をしてみましょう。
相続人:妻、子ども3人
相続財産:1000万円
特別受益:第1子が、故人生前時に家の頭金として100万円の援助を受けていた
・ステップ1|みなし財産の計算
まず、第1子が援助を受けていた100万円は、生前贈与であり、特別受益です。そのため、みなし財産の計算を以下の通り行います。
1000万円(相続開始時の財産)+100万円(特別受益)=1100万円(みなし財産)
・ステップ2|相続分の計算
みなし財産が1100万円あることが計算によってわかりました。次にこのみなし財産に法定相続分をかけて実際の相続分を求めることになります。
法定相続分 計算式 相続分 妻(配偶者) 1/2 1100万円×1/2 550万円 第1子(子) 1/6 1100万円×1/6−100万円 約83万円 第2子(子) 1/6 1100万円×1/6 約183万円 第3子(子) 1/6 1100万円×1/6 約183万円
このように特別受益分を減算することで平等な遺産分配をすることができます。
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3、特別受益に該当するケースとしないケース
特定の相続人が優遇されていたとしても、そのすべてが特別受益にあたるとは限りません。特別受益に該当するケースと該当しないケースについても、確認しておきましょう。
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(1)特別受益に該当するケース
特別受益に該当するケースは、主に「生前贈与」や「遺贈」を受けた場合が考えられます。生前贈与とは、故人が生前中に、現金や不動産、動産などの財産を譲り渡した場合のこといいます。また遺贈とは、遺言によって、財産を譲り渡すことをいいます。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 結婚、養子縁組の持参金
- 土地、建物など不動産購入の資金援助
- 事業資金の贈与
- 相続税の節税目的での贈与
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(2)特別受益に該当しないケース
法的には特別受益にあたらないケースがあります。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 生命保険の支払い
- 死亡退職金の受け取り
- 支度金、結納金の支出
- 教育費用の支出
生命保険や死亡退職金は、特定の相続人だけが高額な金額を受け取る場合には、特別受益にあたると判断されることがあります。特に死亡保険金は金額、受取人、保険契約者等によって扱いが異なる可能性があり注意が必要です。
また結納金や教育費の金額も、他の兄弟姉妹と比べて高額だった場合には、特別受益とみなされる可能性があるため注意が必要です。
4、特別受益に関する相続争いが起きそうなときの対処法
生前贈与や遺贈など特別受益にあたる可能性が高い場合には、相続時にトラブルが発生する可能性があります。そこで、相続争いが起きそうなときの対処法を紹介します。
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(1)相続人同士で話し合う
まずは、相続人同士で話し合いを試みます。たとえ、特別受益が発生していたとしても、その分を考慮して、相続人全員が納得できる遺産分割の話し合いをすることができれば、問題はありません。
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(2)遺産分割調停・審判をする
相続人同士での話し合いによって解決することができない場合、家庭裁判所の調停委員の仲裁によって話し合いをする「調停」や裁判所に判断してもらう「審判」を利用することができます。
調停が不成立となり、審判でも不服申し立てがあった場合は、裁判所に訴訟を提起することになります。 -
(3)弁護士に相談する
相続人同士での話し合いや調停、審判、訴訟などの法的手続きは、個人では難しいことがあります。
そこで弁護士に依頼することで、代わりに他の相続人との交渉を任せたり、調停・審判・訴訟になったとしても書類の準備や裁判所での手続きを任せたりと、相続に関するすべてを任せることができます。また、早期の相談で、遺言書の検認や遺産分割の仲裁など、未然にトラブルを防止できることもあります。
5、まとめ
特別受益は、婚費や生前贈与、遺贈など多くのシーンで対象となる可能性があります。特別受益がある場合には、通常の遺産相続とは異なる計算であるため注意が必要です。また、特別受益がある場合には、相続争いになることも多く、早期に弁護士に相談することが得策です。
ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスでは、相続問題の解決実績がある弁護士がお一人おひとりの事情に合わせた最適なアドバイスをいたします。相続問題・遺産問題でお悩みの場合、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています