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遺言で兄弟のうち一人だけが優遇されることは、法的に許される?

2024年06月06日
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遺言で兄弟のうち一人だけが優遇されることは、法的に許される?

沼津市の統計によると令和4年度には、2922名の方が亡くなっています。被相続人の死亡とともに見つかった遺言の中には、「長男にすべての遺産を相続する」と書かれているケースもあるでしょう。

被相続人の意思を尊重するため、兄弟のうち一人だけを優遇する遺言であっても、原則として有効です。しかし、相続人には最低限保証の遺留分が認められているため、その分を金銭で請求することができます。

本コラムは、遺言で優遇される限度や遺留分についてベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。

1、兄弟のうち一人だけに相続するような遺言は認められるのか?

兄弟のうち一人だけを優遇するような遺言であったとしても、相続人が受け取れる遺産には限界があります。そこで、優遇レベルの限界について解説します。

  1. (1)一人だけが遺産を相続するような遺言でも法律上有効

    兄弟のうち一人だけが遺産の受け取りを指定されている遺言も、遺言書としては有効です(「遺言自由の原則」と言います)。基本的には遺言者である被相続人に自分の財産を死後、どうように扱うのか決める権利があり、被相続人の意思が尊重されます。

  2. (2)遺言書の内容と異なる遺産分割協議も可能

    遺言書の内容に相続人全員が納得できない場合には、相続人全員で話し合い、遺産を分けることができます。基本的には、遺言書に従うのがルールですが、相続人全員が反対した場合には例外的に相続人同士の話し合いが優先されます

    もっとも、兄弟のうち一人だけが優遇されるような遺言であった場合、その相続人が話し合いに応じるかどうかは相手次第になってしまいます。

  3. (3)相続の最低限保証として「遺留分」がある

    遺言で兄弟のうち一人が優遇されるような内容であっても、各相続人には「遺留分」という相続の最低限保証があります。この遺留分は、不平等な相続が起こらないように相続人の相続権を保護するために法律上定められているものです。

    そのため、遺留分という制度を利用することで最低限の遺産を受け取ることができます(2章後述)。

2、「最低限保証」の遺留分とは?

「遺留分」とは、相続人に認められた最低限保証された遺産相続割合のことをいいます。こちらでは遺留分の制度について詳しく解説します。

  1. (1)遺留分が認められる親族の範囲(民法1042条1項)

    遺留分が認められるためには、相続人であることが必要です。そして、相続人の中でも以下の方のみが対象です。

    • 配偶者
    • 直系卑属(子どもや孫)
    • 直系尊属(父母や祖父母)


    そのため、被相続人の兄弟姉妹や甥・姪には、遺留分がありません

  2. (2)遺留分の対象となる相続財産

    遺留分の対象になる相続財産は以下のとおりです。

    • 相続開始時の財産(1043条1項)
    • 相続開始の前1年以内に行われた贈与(1044条1項前段)
    • 当事者が遺留分を侵害していることを知りつつ行った贈与(1044条1項後段)
    • 侵害を知りつつ、不相当な対価で行われた有償行為(1045条2項)
    • 共同相続人の特別受益(1044条2項、903条1項、904条)


    具体的な遺留分を計算するためには、過去の贈与などを調べなければなりません。そのため、他の兄弟だけ車を買ってもらっていた、家の頭金を出してもらっていたなど思い当たることがあれば、弁護士に相談してみましょう。

  3. (3)遺留分には時効がある

    遺留分の請求は、「遺留分侵害額請求」によって行う必要があります。この遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った日から1年以内に行わなければなりません(1048条前段)。1年を過ぎてしまうと、時効にかかり、遺留分侵害額請求をすることができなくなってしまいます。

    この制度についてご注意いただきたい点は、時効の1年をいつから数えるかについてです。ただ遺留分権利者がただ遺贈・贈与の事実を知るのみではなく、その遺贈・贈与が遺留分を侵害することを知った時から1年という数え方になります。たとえば、被相続人が死亡してから数年後、他の兄弟だけが優遇された遺贈・贈与が行われ、遺留分を侵害している場合、時効はそれを相続人が知った日から1年以内となります。

    また、死亡の事実や遺留分を侵害する事実があったことを知らなかったとしても、10年間経過した場合には、時効にかかり遺留分侵害額請求ができません(1048条後段)。そのため、時効にかかってしまう前に、なるべく早く弁護士に相談することが重要となります。

3、遺留分で得られる相続財産の計算例

遺留分の計算は、以下の手順で行います。

  1. (1)遺留分の基礎となる財産の計算

    遺産のなかには、不動産や動産、現金などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスとなる財産も存在する可能性があります。その場合は、プラスとなる財産の合計から負債分を引く必要があります。式にすると下記のとおりです。

    遺留分の基礎となる財産
    =相続時の遺産(プラス財産)+1年以内の生前贈与+10年以内の特別受益−負債(マイナス財産)
  2. (2)総体的遺留分と個別的遺留分

    「総体的遺留分」とは、相続財産全体に対して主張できる相続分のことをいいます。つまり、相続財産の一部しか遺留分として請求することはできません。遺留分権利者の内訳によって法律上、遺留分の範囲が決まっています。

    「個別的遺留分」とは、総体的遺留分に法定相続分をかけた割合のことをいいます。下記は、総体的遺留分に法定相続分をかけた個別的遺留分の一覧です。

    相続人の構成 総体的遺留分 個別的遺留分
    配偶者 直系卑属(子ども) 直系尊属(父母) きょうだい
    配偶者のみ 1/2 1/2
    配偶者+直系卑属 1/2 1/4 1/4
    配偶者+直系尊属 1/2 1/3 1/6
    配偶者+きょうだい 1/2 1/2 権利なし
    直系卑属のみ 1/2 1/2
    直系卑属+直系尊属 1/2 1/2 権利なし
    直系卑属+きょうだい 1/2 1/2 権利なし
    直系尊属のみ 1/3 1/3
    きょうだいのみ なし 権利なし
  3. (3)遺留分請求額を計算する

    「(1)遺留分の基礎となる財産の計算」で確定した遺留分の対象に、「個別的遺留分」をかけることで請求できる遺留分の金額を求めることができます。計算式にすると下記のとおりです。

    遺留分
    =遺留分の基礎となる財産×個別的遺留分


    たとえば、相続人が配偶者と子ども3人であり、遺留分の基礎となる財産が5000万円あった場合を考えてみましょう。

    相続人であり、遺留分権利者である配偶者と子ども(直系卑属)の組み合わせのため、総体的遺留分は、1/2です。そして、法定相続分は、配偶者が1/2、子どもがそれぞれ1/6です。そのため、それぞれの遺留分は下記のようになります。

    • 配偶者:5000万円×1/2×1/2=1250万円
    • 子ども:5000万円×1/2×1/12=約416万円


    このようにそれぞれ求められた金額の範囲で遺留分が認められ、遺留分侵害額請求をすることができます。

4、遺言に納得できないときの遺留分侵害額請求の手続きと流れ

遺留分が認められたとしても、自動的に遺留分相当の金銭をもらえるわけではありません。遺留分が侵害されていることがわかったら、遺留分を侵害している相続人に対して、遺留分相当額を請求する必要があります。遺留分侵害額請求の手続きと流れについて解説します。

  1. (1)遺産総額を計算して遺留分の侵害額を確定させる

    遺留分を請求するとしても、遺留分の侵害額を確定させなければなりません。前述した方法に従えば、遺留分を計算することが可能です。しかし、そもそもの遺留分の基礎となる財産の調査が難しい場合もあります。

    そのため、遺留分侵害額請求をしたい場合には、財産調査の方法含め、遺留分の正確な計算のためにも弁護士に相談されることをおすすめします

  2. (2)遺留分を侵害している相続人と話し合う

    遺留分侵害額請求をすることになったら、まず、侵害している相続人と話し合いや交渉をします。この話し合いで請求内容に納得し、解決できれば、遺留分相当額を金銭で受け取ることができます。

  3. (3)話し合いでまとまらない場合は内容証明郵便で請求する

    そもそも相手が話し合いに応じてくれないなどの場合には、請求の意思表示として内容証明郵便で遺留分侵害額請求します。内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に・どのような文書を送ったのかを、郵便局が証明してくれる郵便方法です。この内容証明郵便を利用することで、その後調停や裁判になったときに証拠として活用できます

  4. (4)遺留分侵害額の請求調停を家庭裁判所に申し立てる

    郵便を送っても返答がなければ、家庭裁判所に「調停」の申し立てをします。調停では、法律に基づき、調停委員を交えた話し合いで解決を目指します。

  5. (5)遺留分侵害額の請求訴訟を起こす

    調停でも解決できなければ、最終的に遺留分侵害額請求訴訟を起こすことになります。裁判になれば、時間や裁判費用が掛かります。しかし、遺留分侵害額請求が裁判で認められれば、差し押さえなどの強制執行ができるため、確実に遺留分を回収することができます

    このように遺留分侵害額請求は、大きく①話し合い、②調停、③裁判の流れで行われます。しかし、流れがわかっていても、相続人同士の話し合いが難航したり、調停や裁判において必要な書類をご自身で準備したりすることは、なかなか難しいでしょう。そのため、弁護士に相談し、手続きのアドバイスや相続人同士の話し合いのサポートを受けることをおすすめします。

5、まとめ

兄弟のうち一人だけが優遇されるような遺言でも、法律上は有効となります。
しかし、優遇された遺言が見つかっても、相続人同士の話し合いで遺産の分け方を変えることが可能です。また、話し合いがまとまらない場合には、最低限の相続として遺留分を請求することもできます。もっとも、遺留分の計算や遺留分侵害額請求を個人で行うには難しい点も少なくありませんので、遺留分の請求については弁護士に相談してみましょう

ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスでは、遺産相続について知見のある弁護士が、財産調査や遺留分侵害額請求のサポートをいたします。相続人のうち一人だけ優遇されるような遺言が見つかり悩まれている方や、遺産相続トラブルでお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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