盗撮は現行犯以外、逮捕が難しい? そう考えられがちな理由とは?
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令和3年8月、友人の恋人女性の裸を、友人宅の脱衣所にカメラを設置して盗撮した容疑で、静岡県浜松市に住む男が逮捕されました。男が盗撮用のカメラを設置したのは同年3月なので、およそ5カ月後に逮捕されたことになります。
盗撮といえば、目撃者や被害者、警戒中の警察官などに犯行中であるところを取り押さえられて現行犯逮捕されるイメージが強いため、なかには「現行犯でなければ逮捕されない」と考えている方もいるでしょう。
しかし、ここで挙げた事例のように、現行犯ではない場合でも逮捕されるケースも実在します。本コラムでは、盗撮行為で現行犯以外でも逮捕されるケースに注目しながら、盗撮行為をした場合に問われる罪や逮捕後の流れについて、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、「盗撮は現行犯でないと逮捕されない」は間違い
盗撮事件の多くは、警察官や目撃者や被害者などによって現行犯逮捕されています。
全国の事例に目を向けると、令和3年4月には宮城県内において買い物中の女子中学生のスカート内を盗撮した男が、8月には富山県内においてコンビニエンスストアで買い物中の女性のスカート内を盗撮した男がそれぞれ現行犯逮捕されたと報じられました。
しかし「盗撮は現行犯でないと逮捕されない」と考えるのは間違いです。
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(1)現行犯でないと逮捕できない犯罪は存在しない
「逮捕」とは、犯罪の被疑者が逃亡または証拠隠滅をはかる事態を防いで適切な刑事手続きを進める目的でおこなわれる強制処分です。
警察・検察官といった捜査機関が捜査の過程で実施するものであり、懲罰を加える目的でおこなわれるものではありません。
逮捕にはいくつかの種別があります。
いずれの種別でも厳格な要件が定められているものの、たとえば「盗撮の場合は現行犯逮捕に限る」といった規定はどの法律をみても存在しません。
つまり「現行犯でないと逮捕できない犯罪」は存在しないのです。 -
(2)現行犯逮捕以外の逮捕種別
刑事訴訟法に規定されている逮捕には、次の3つの種別があります。
- 通常逮捕(刑事訴訟法第199条1項)
裁判官が発付する逮捕状にもとづく原則的な逮捕です。犯行の後日に執行されることから「後日逮捕」とも呼ばれます。 - 現行犯逮捕(同第212条1項・2項)
現に罪をおこない、または現に罪をおこない終わった者の身柄を拘束する逮捕です。裁判官の逮捕状は不要で、捜査機関に属さない私人にも執行が認められています。
また、罪をおこない終わって間がないと明らかに認められる場合も「準現行犯」として同様に逮捕できます。 - 緊急逮捕(同第210条1項)
一定の重大な罪を犯したことを疑うに足りるじゅうぶんな理由があり、急速を要し裁判官の逮捕状を求めるいとまがないときに許される逮捕です。
逮捕後は直ちに逮捕状を請求して発付を受ける必要があり、裁判官がこれを却下した場合は釈放しなければなりません。
これら3つの逮捕種別のうち、現行犯逮捕は「逮捕状を必要としない」「私人でも執行可能」という特殊な手続きです。
日本国憲法第33条は、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されないとして令状主義を定めており」、現行犯逮捕は例外的な特別な立場にあります。
つまり、現行犯逮捕はあくまでも例外なので、どのような犯罪でも、令状主義に従った原則的な種別で逮捕されるおそれがあるわけです。 - 通常逮捕(刑事訴訟法第199条1項)
2、盗撮で通常逮捕(後日逮捕)されるケースとは
盗撮の容疑で犯行の後日に通常逮捕されるのはどのようなケースなのでしょうか?
通常逮捕の要件や逮捕につながる証拠とともに解説します。
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(1)通常逮捕の要件
通常逮捕が認められる要件、つまり裁判官が逮捕状を発付する要件は次の2点です。
- 犯罪の嫌疑があること
通常逮捕には、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由が必要です。
主観的に「疑わしい」というだけでなく、証拠や資料によって客観的・合理的に嫌疑が説明できなければなりません。 - 逮捕の必要性があること
警察による捜査は原則として「任意捜査の方法」によっておこなわれなければなりません。
被疑者が逃亡または証拠隠滅をはかるおそれがあり、任意捜査の方法では捜査の目的が達成できない場合には「逮捕の必要性がある」と認められます。
- 犯罪の嫌疑があること
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(2)通常逮捕につながる証拠
通常逮捕が認められる要件に照らすと、盗撮容疑で通常逮捕につながる証拠としては次のようなものが挙げられます。
- 被害者や目撃者の供述
- 盗撮の状況を記録した防犯ビデオカメラの映像
- 盗撮画像をインターネット上にアップロードした際の証跡
「盗撮は現行犯でないと逮捕されない」という誤解は、まさに盗撮している状況を押さえられない限り「盗撮をした」という証拠が存在しないという誤解から生じていると考えられます。
しかし、ここで挙げたようなさまざまな証拠によって、客観的・合理的に嫌疑が証明できる場合は、通常逮捕につながることがあるといえます。
3、盗撮で問われる罪とは?
刑法をはじめとした法令には「盗撮罪」という犯罪は存在しません。
盗撮行為は、状況に応じてさまざまな法令が適用されて処罰されます。
盗撮で問われる罪は、主に次の3つです。
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(1)都道府県の迷惑防止条例違反
スーパーやコンビニエンスストアといった店舗、駅などの施設といった公共の場における盗撮行為は、都道府県が定める「迷惑防止条例」によって罰せられます。
静岡県迷惑防止条例第3条1項では、公共の場所や公共の乗り物、事務所・学校・タクシーなど不特定もしくは多数の者が出入りする場所における盗撮行為が禁止されています。
下着などを見る、またはその映像を記録する目的でビデオカメラなどを向けたり、設置したりといった行為が禁止対象で、違反者には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
また、犯行が常習的であると判断された場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に引き上げられます。 -
(2)軽犯罪法違反
軽犯罪法は軽微な秩序違反行為を規制する法律です。
第1条において33の行為を分類しており、同条23号は人の住居・浴場・更衣(こうい)場・便所そのほか人が通常は衣服をつけないでいるような場所を、正当な理由なく「のぞき見」する行為を規制しています。
文言上は、「のぞき見た」行為が処罰の対象となっていますが、直接自分の目でのぞき見る行為のほか、カメラやビデオでの盗み撮りも同行為に当たるとされています。【福岡高裁 平成27年4月15日判決】
迷惑防止条例が公共の場所等における盗撮行為を規制している一方で、軽犯罪法は私的な場所におけるのぞき見を規制することで盗撮も処罰の対象としているのです。
軽犯罪法に違反すると、拘留または科料が科せられます。
拘留とは1日以上30日未満の刑事施設への収容、科料とは1000円以上1万円未満の金銭徴収です。 -
(3)刑法の住居侵入罪・建造物侵入罪
実際に盗撮行為にいたっていない場合でも、盗撮という不法の目的をもって他人の住居や囲繞(いにょう)地、スーパーや駅といった建物・施設に立ち入れば、刑法第130条の住居侵入罪・建造物侵入罪が成立します。
いわゆる「不法侵入」と呼ばれる犯罪で、無断で住居などに立ち入った場合はもちろんのこと、たとえ客や利用者として出入りが自由な場所でも不法の目的をもって立ち入れば「侵入」にあたります。
法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
4、盗撮で逮捕された後の刑事手続きの流れ
盗撮の容疑で逮捕されると、その後はどのような刑事手続きを受けることになるのでしょうか?
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、途中で釈放されない限り、警察の段階で48時間、送致されて検察官の段階で24時間、合計72時間にわたる身柄拘束を受けます。
自宅へと帰ることも会社や学校に通うことも許されず、警察官や検察官による取り調べを受けることになります。
さらに、検察官の請求によって裁判官が勾留を許可すると、原則10日間、延長によってさらに10日間、合計20日間を上限に身柄拘束が延長されます。
逮捕から数えると、身柄拘束の期間は最長で23日間となるため、社会生活への影響は甚大なものになるでしょう。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留期間が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を判断するのが原則です。
被疑者を厳しく罰するべきだと判断されれば起訴され、被疑者だった立場は被告人へと変わり、被告人としての勾留が続きます。
起訴された段階から保釈の請求が可能になりますが、保釈が認められなかった場合は勾留取り消しが認められない限り、刑事裁判が終わるまで身柄拘束が解かれません。
盗撮を証明する証拠がそろわない、被害者との示談が成立しているといった事情があり、検察官が「被疑者の罪を問う必要はない」と判断した場合は不起訴となります。
不起訴の場合は刑事裁判が開かれないため、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。
刑事裁判が開かれないので勾留する必要なくなり、直ちに釈放されます。 -
(3)刑事裁判で審理される
刑事裁判では、検察官と弁護士がそれぞれ提出した証拠を裁判官が審理し、有罪・無罪の別と、有罪の場合は量刑を言い渡します。
刑事裁判は公開の法廷でおこなわれるのが原則です。
ただし、被疑者が罪を認めており、予想される量刑が100万円以下の罰金または科料にあたる場合は、書面審理のみで公開裁判を開かない「略式手続」がとられることがあります。
通常の刑事裁判よりも迅速に処理されることになり、被告人として勾留される期間も短縮されるため、素早い社会復帰が期待できるという点では加害者にとって有利な処分です。
ただし、必ず有罪となって罰金・科料の前科がついてしまうため、略式手続の打診を受けても慎重に判断する必要があります。
5、まとめ
盗撮の容疑で通常逮捕されてしまうと、逮捕・勾留によって最長で23日間にわたる身柄拘束を受けます。
早期の身柄釈放を実現するには、検察官による勾留請求の回避が欠かせません。
しかし、わずか72時間という制限時間のなかで被害者との示談交渉を進めたり、勾留請求に対抗するための証拠を集めたりすることは容易ではなく、残された家族だけで対応するのは難しいでしょう。
盗撮事件において早期釈放や処分の軽減を実現するためには、弁護士のサポートが欠かせません。
ご家族が盗撮事件の被疑者として逮捕されてしまいお困りの方は、盗撮事件をはじめとした刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 沼津オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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