自己破産の免責不許可にあたるケースとは? その後の対処法を解説
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裁判所が公表している司法統計によると、令和4年(2022年)に静岡地方裁判所に申し立てのあった破産申立て事件の件数は、1874件でした。
自己破産の申し立てをしたとしても、裁判所から免責許可決定を受けることができなければ、借金の返済義務はなくなりません。そして、破産法により、免責不許可事由に該当する場合、原則として免責許可決定を受けるのができないことに注意が必要です。
本コラムでは、免責不許可事由の具体例や、免責不許可事由に該当する場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、免責不許可とは|免責不許可にあたる行為
まず、自己破産における「免責不許可事由」の概要や、免責不許可事由にあたる行為を解説します。
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(1)免責不許可事由とは
「免責不許可事由」は破産法252条1項各号で定められている一定の事由であり、これらの事由に該当する場合には、原則として裁判所から免責許可決定を受けることができず、借金は免除されません。
そのため、免責不許可事由の有無は、自己破産を選択するかどうかを判断するうえで重要な要素となります。 -
(2)免責不許可事由にあたる行為
破産法では、以下の事由を免責不許可事由と定めています。
① 財産の隠匿や贈与等、財産の価値を不当に減少させる行為(破産法252条1項1号)
債務者の財産、債権者への配当の原資となりますので、そのような配当原資を不当に減少させる行為は、免責不許可事由にあたります。
具体的には、「預貯金を家族名義の口座に移す」「不動産を不当に低い金額で親族に売却する」等の行為が該当します。
② 不当に債務を負担する行為(破産法252条1項2号)
自己破産により借金の返済義務がなくなるからといって、返済できないにもかかわらず借金を重ねる行為は、不当な債務負担行為として免責不許可事由にあたります。
具体的には、「クレジットカードで購入した商品の現金化」「ヤミ金など違法な高金利でお金を借りる」等の行為が該当します。
③ 特定の債権者を優遇する行為(破産法252条1項3号)
破産手続きでは、「債権者平等の原則」により、すべての債権者が債権の種類に応じて平等に配当を受ける権利があります。
特定の債権者だけに返済するような行為は債権者平等の原則に反するため、不当な偏頗(へんぱ)行為として免責不許可事由に該当します。
具体的には、「友人からの借金を先に返済する」「自動車の引きあげを回避するために自動車ローンを優先的に完済する」等の行為が該当します。
④ 浪費や賭博その他の射幸行為(破産法252条1項4号)
収入とは不釣り合いな浪費やギャンブルにより多額の債務を負った場合には、免責不許可事由に該当します。
たとえば、借金の原因がパチンコ、パチスロ、競馬、ブランド品の購入、FXや仮想通貨の取引である場合には免責不許可事由となる可能性があります。
⑤ 債権者をだまして行われた信用取引(破産法252条1項5号)
借金を完済できる見込みがないにもかかわらず、返済できる旨を偽って金融機関等から借り入れをした場合には、詐術による信用取引として免責不許可事由にあたります。
具体的には、「借り入れ審査の際に、年収や借金額をごまかして借り入れをする」等の行為が該当します。
⑥ 帳簿隠滅等の行為(破産法252条1項6号)
業務や財産に関する帳簿や書類を隠匿等した場合には、免責受許可事由にあたります。
具体的には、「自営業者が、出納帳、決算書、確定申告書を故意に改ざんする」等の行為が該当します。
⑦ 虚偽の債権者名簿を提出する行為(破産法252条1項7号)
自己破産の申立時には、借金をしているすべての債権者を一覧表にした書類を提出する必要があります。
架空の債権者名を記載したり、債権者をあえて記載しなかったりした場合には、債権者名簿の偽造として、免責不許可事由にあたります。
具体的には、「友人からの借り入れがあるにもかかわらず、債権者名簿に載せない」等の行為が該当します。
⑧ 裁判所や破産管財人の調査への不協力(破産法252条1項8号)
破産者には、裁判所や破産管財人の調査に協力する義務があります。
破産手続に関する説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりした場合には、調査協力義務違反として免責不許可事由にあたります。
具体的には、「破産管財人から家計簿の提出を求められたにもかかわらず、これを拒否する」等の行為が該当します。
⑨ 破産管財人の管財業務を妨害する行為(破産法252条1項9号)
自己破産の手続が、同時廃止事件ではなく管財事件となったときは、破産管財人が選任されます。
破産管財人が行う管財業務を妨害した場合には、管財業務妨害として免責不許可事由にあたります。
具体的には、「財産の引渡しを拒む」等の行為が該当します。
⑩ 過去7年以内の免責所得等(破産法252条1項10号)
過去7年以内に自己破産による免責や給与所得者等再生による再生計画の認可を受けている場合には、免責不許可事由になります。
⑪ 破産法上の義務違反行為(破産法252条1項11号)
破産者の説明義務(破産法40条1項)等の破産法上の義務違反があった場合には、免責不許可事由に該当します。
2、免責不許可と非免責債権は異なるもの
免責不許可と似たものに「非免責債権」というものがあります。
非免責債権とは、裁判所から免責許可決定を受けたとしても、支払義務がなくならない債権をいいます。
税金や国民健康保険料、国民年金保険料、養育費等の債権が非免責債権に該当します。
免責不許可は「免責を認めるかどうか」の場面で問題となる事柄であるのに対して、非免責債権は「そもそも免責の対象となる債権であるかどうか」の場面で問題となる事柄である、という点が違います。
非免責債権があるからといって、免責不許可になるわけではないことに注意が必要です。
3、免責不許可事由に該当する場合、その後はどうなる?
以下では、免責不許可となってしまった場合に、その後どうなるのかについて解説します。
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(1)「即時抗告」という異議申立てが可能
免責不許可になってしまった場合には「即時抗告」という異議申立手続を行うことができます(破産法13条、民事訴訟法332条)。
即時抗告をすることにより、地方裁判所での免責不許可決定が妥当であったのかどうかを高等裁判所で再度審理してもらうことができます。
「即時抗告をすれば、必ず結論がくつがえる」というわけではありませんが、裁判所の判断に納得がいかない場合の対処法のひとつになります。
なお、即時抗告をする場合には、免責不許可決定の送達を破産者が受けた日から1週間以内に申立てを行う必要があります。 -
(2)免責不許可事由に該当しても免責される場合がある
免責不許可事由に該当する場合には、原則として免責不許可となりますが、裁量免責(破産法252条2項)が認められれば例外的に免責許可決定を受けられる可能性があります。
裁量免責とは、破産手続開始決定に至った経緯等の一切の事情を考慮して、裁判所が相当と認めるときに得られる免責です。
免責不許可事由に該当する事情があっても、その程度が重大なものとはいえず、破産者本人が反省しており、経済的再建の可能性がある場合には、裁量免責が認められる可能性があります。
裁量免責では、破産管財人による免責意見が重要となるため、破産手続中は、破産管財人の調査にしっかりと協力して、経済的な更生が見込めることを示すことが大切です。
4、自己破産以外で借金問題を解決する方法
自己破産で免責不許可となってしまっても、別の債務整理の方法により借金問題を解決できる可能性があります。
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(1)任意整理
「任意整理」とは、裁判所を通さずに債権者と交渉をすることで、借金の返済負担を軽くする方法です。
任意整理では、将来利息のカット、遅延損害金の減免、返済方法の見直し等の方法で返済金額の負担軽減を図ります。
裁判所を利用しない方法であるため、免責不許可事由の有無にかかわらず、利用することができます。
また、任意整理では、債権者平等の原則は適用されませんので、一部の債権者を除いて債務整理を行うことも可能です。
ただし、裁判所の決定により強制的に債務の免除を行う自己破産とは異なり、任意整理は、あくまでも債権者との合意による債務整理の方法になるため、大幅な借金の減免効果までは期待できません。 -
(2)個人再生
「個人再生」とは、裁判所から再生計画の認可決定を受けることにより、借金を減額し、原則3年(最長5年)での分割返済を可能にする方法です。
個人再生は、自己破産と同様に裁判所を利用する手続ですが、自己破産の免責不許可事由に該当する方であっても利用することができます。
また、自己破産のように財産を処分する必要はないため、自宅や車などの財産を手元に残したまま手続ができるというメリットがあります。
ただし、個人再生は減額後の借金を返済していく方法であることから、返済できるだけの安定した収入が存在することが要件となります。
5、まとめ
免責不許可事由がある場合には、原則として免責不許可となりますが、例外的に裁量免責を受けられるケースも少なくありません。
また、万が一免責不許可となってしまったとしても、即時抗告により判断が覆ったり、他の債務整理の方法により借金返済の不負担を軽減できる可能性もあります。
自己破産を検討されている方は、免責不許可事由の有無をふまえて、そもそも自己破産が最適な手段であるかを判断する必要があります。
専門家である弁護士のアドバイスも必要となるため、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
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