親権を母親がとれない場合とは? 妻の不貞を理由に親権をとることはできる?
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未成年の子どもがいる夫婦が離婚する際に、必ず直面するのは子どもの親権の問題です。日本では、母親が親権を取得するケースが多いものの、父親としてどうしても納得がいかないという場合もあるでしょう。特に、母親が不貞している場合や母親の子育てに疑問がある場合は、親権を譲れない気持ちになるものです。
そもそも親権はどうやって決まるのか、母親が親権をとれないのはどのような場合か、そして、妻の不貞が離婚原因だった場合でも親権を譲らなければならないのか。
本記事では、こうした疑問について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が詳しく説明します。
1、親権の決まり方
離婚する夫婦に未成年の子がある場合は、必ず親権者を決めなければなりません。日本では離婚後の共同親権が認められておらず、父親か母親のいずれかが一人で親権を持つことになります。
そして、親権者を決める際には、親の都合ではなく、何よりも子どもの福祉が重視されます。
子どもの福祉とは、「両親のうち、どちらと共に暮らすほうが子ども自身にとって幸せなのか」という観点で考えることを意味します。この観点から親権者を決める基準として、次の6つのポイントがあります。
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(1)監護の継続性
離婚するまでの同居・別居期間中に、子どもを主に監護していたほうに、離婚後の親権を与えるべきだという考え方です。
離婚は子どもの生活や心身に大きな影響を与えます。そのため、できるだけ、離婚前の状況を維持するほうが子どもの福祉にとって望ましいと考えられているのです。
具体的には、離婚するまでの間に、それぞれの親がどれくらい実際に子育てに関わってきたか、という実績が重視されます。
たとえば、以下のような観点から養育の実績を振り返ることになります。- 保育園や幼稚園の送り迎え
- 病気になった時の世話の状況
- 乳幼児期に大切な予防接種の管理
- 食事の世話や生活のリズムの管理状況
- 子ども同士の友達関係の理解
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(2)母性優先の原則
母性優先の原則とは、子どもに対して母親的、養育的な関わりをする側に親権を与えようとする考え方です。単純に母親を優先するという意味ではなく、子どもに対して親身に母性的な態度で関わることが大事だという意味です。
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(3)子どもの意思の尊重
親権の決定は、親のために行うのではなく、あくまで子どもの幸せのためになされるべきものです。
したがって、子ども自身の意思はとても重要です。子ども自身がどちらの親と暮らしたいと思っているのか、どんな不安を持っているのか、子どもの気持ちを尊重しなければなりません。子どもの年齢が上がるにつれ、子どもの意思が尊重されるようになります。
赤ちゃんのうちは意思をくむことは難しいですが、言葉を話せるようになれば、離婚後の生活について、本人の希望をくみ取ろうとすることはとても大事です。家事事件手続法では、離婚時の親権を審判によって決める際、子どもが15歳以上の場合は、子ども本人の意見を聞くことが義務付けられています。
そして、15歳未満であっても、家庭裁判所では、専門の調査官によって子どもの気持ちを確認するための手続きが行われています。 -
(4)きょうだい不分離の原則
子どもが複数いる場合には、原則として離婚後もきょうだいが一緒に暮らせるように配慮すべきだという考え方です。
きょうだいは共に助け合う存在であり、一緒に暮らすことでお互いの人間的成長につながるためです。大人の都合で安易にきょうだいを引き離さない配慮が求められるのです。 -
(5)養育環境の整備
離婚後に、子どもを育てる環境がどれくらい整備されているのかを重視する考え方です。
離婚すると、居住地や生活環境が変わることが考えられます。
親は子どもを引き取って監護していくのならば、子どもが健全に育っていくために適切な家や環境を整える責任があります。また、離婚後は、育児を片方の親が一人で担うことになります。
特に子どもが小さいうちは子育てに手がかかります。
夫婦が同居していれば、片方の親が働いて、片方が育児休暇をとるといった方法もあります。
しかし、離婚するとずっと片方の親だけで育てることになるため、どちらが親権を取得したとしても、育児だけに専念することは難しくなるでしょう。
そこで、自分だけでなく、祖父母や親族など(監護補助者といいます)の協力も得て、子どもの監護に適した環境をどれだけ整備できるかも重要なポイントとなります。 -
(6)面会交流の寛容性
離婚した後でも、子どもにとっては、両方の親と適切な関係を築いていくことが大事です。
その根底には、離婚によって、いずれかの親との交流を断ち切ってしまってはいけない、子どもにとってはどちらの親も大切な存在であるという考えが根底にあります。
そこで、仮に親権を取得した場合、他方の親と子どもとを交流させる意思があるかどうかが重視されます。
2、母親が親権をとれないケースとは?
子どもの親権は、母親が取得するケースが多いとはいえ、母親が親権をとれないケースも実際にあります。
では、具体的にどのような場合に、母親に親権が認められないのでしょうか。
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(1)母親が子どもを虐待している
親権を得るには、離婚に至るまでの養育実績が重視されます。
たとえば、- 暴力をふるう
- 人格を否定するような暴言を吐く
- 過度な課題を出してできるまで立たせる
- 厳寒の真冬や真夏の炎天下にベランダなどに締め出す
これらはいずれも虐待に当たります。
虐待行為がある場合には、母親といえども親権が認められない可能性が高まります。 -
(2)ネグレクト(育児放棄)している
親としての責任を放棄し、育児を全く行っていない場合(ネグレクト)にも親権が認められない可能性が高くなります。
たとえば、次のようなものがネグレクトに該当します。- 食事を与えない
- 子どもだけで何日も留守番させる
- 風呂に入れない
- 病気やけがをしても病院で治療を受けさせない
- 衣類を買い与えず、年中同じ服を着せる
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(3)母親が病気などで育児ができない
母親が病気などで育児ができない場合にも、親権は認められません。
たとえば、- 重い病のために長期間入院している
- 病気のため子どもの面倒を見ることができない
- うつ病などの精神疾患のため日常生活ができない
このような場合には、子どもを養育していく能力がないと判断され、親権を得ることが難しくなります。
ただし、親権が認められるためには、身体的または精神的に万全であることまでは求められません。つまり、身体的な病気や精神疾患があっても、ある程度の育児ができれば、親権が認められる可能性があります。 -
(4)子どもが父親と暮らすことを望んでいる
親権を決める際に、子ども自身の意思は重視されます。
したがって、子どもが「お母さんではなくお父さんと一緒に暮らしたい」と明言している場合には、母親に親権が認められない可能性があります。
前述したとおり、子どもの年齢が高くなるほどこの可能性も比例して高まります。 -
(5)別居後に子どもが父親と一緒に暮らしている
夫婦が別居した時点で、子どもが父親と一緒に暮らしている場合は、親権争いの結果母親が負ける可能性があります。これは、監護の継続性の原則にのっとったものであり、できるだけ子どもの養育環境を変えないように、という配慮によるものです。
特に、父親との生活が長く続き、その養育環境に子どもがすっかり慣れている場合は、このままの状態を維持するほうが望ましいと判断され、母親が負ける可能性が高まります。
3、妻(母親)の不貞で離婚する場合、親権はどうなる?
母親の不倫や浮気がきっかけで離婚となった場合、「不倫(浮気)するような人間には親権を渡せない」と考える方もいます。
また、不貞相手と子どもが接触すると、子どもの精神状態にも悪影響があるのではないかという懸念から、母親に親権を認めないと主張する人もいます。
しかし、不倫(浮気)の事実は、実際のところ、親権の争いにはあまり関係がありません。
不貞行為は夫婦間の信頼を壊すものであり、離婚原因にも該当します。しかし、不貞行為と親権の所在は別物と考えられており、不貞をした相手には親権を認めないという運用は、現在の日本では採用されていません。
ただし、夜に子どもを一人で留守番させて、不倫行為を繰り返したなど、子どもの監護に悪影響を及ぼすような場合は、監護権者としてふさわしくないとして、親権争いで不利になる可能性があります。
4、夫(父親)が親権をとれるケースとは?
以上の点を整理すると、父親が親権を取得するためには、次のような点がポイントとなります。
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(1)子どもにとってよりよい養育環境である場合
離婚後に、父親と暮らすことが子どもにとってより幸せであることが認められる必要があります。そのため、子どもが実際に生活する家や子ども部屋などの環境をしっかりと整えましょう。ぜいたくをする必要はなく、清潔できちんとした食事や規則正しい生活ができる環境であることが大事です。
また、父親以外の人から子どもへのサポートを受けられる環境も重要です。
ひとりだけで子育てをしようとせず、祖父母やきょうだいによる養育や家事の支援を積極的に求めましょう。
親族がいなければ、保育園や家事サポートサービスとの連携も検討してみてください。
父親の仕事が忙しい時でも、子どもが安心して暮らせる状況にあることをアピールすることが大事です。 -
(2)家庭裁判所の調査で適格性を認めてもらう
親権争いでもめた場合、家庭裁判所の離婚調停や審判、裁判で決着をつけることになります。そこで、重要視されるのは、家庭裁判所の調査官による調査です。
- 双方の親が子どもにどれくらい関わってきたのか
- 双方の親の仕事や収入
- 今後の養育環境はどのように整備されているのか
- 親が子どもの心情にどれくらい配慮しているか
- 子どもの現在の生活状況はどんなものか
- 子ども自身は親の離婚や別居についてどう感じているのか
- 子どもは、これからどんな生活を望んでいるのか
以上のような観点から、さまざまなチェックが行われます。
親との面談に加えて、双方の親の家を訪問したり、子どもの通う学校の先生との面談、また、子ども自身との面接や、親と子どもとの交流を家庭裁判所内で実施させたりするなど、多岐にわたる調査がなされます。
この調査に適切に対応し、父親のほうが親権者としての適格があり、子どもとの信頼関係も深いことが調査官に理解されれば、父親が親権を取得できる可能性が高まります。
なお、収入が多い方が有利ではないかと考える方もいますが、親権については、親の収入はさほど重視されません。
収入が低い方は、収入が高い側から養育費を受け取って子どもを育てることができると考えられるからです。
5、まとめ
日本では、まだまだ父親に親権が認められることは少ないのが実情です。しかし、事情によっては、どうしても母親には親権を渡したくないという方もいます。そして、夫婦間で折り合いがつかない場合は、家庭裁判所の調停や訴訟を利用することになります。この場合は、説得力ある法的な主張や、自分の主張を裏付けるための証拠が重要です。
ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスでは、父親が親権を取得できる条件やそのための準備についても、経験豊富な弁護士がアドバイスを提供しています。親権問題でお悩みの方は、できるだけ早期に弁護士までご相談ください。
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