面会交流に対する間接強制とは│認められるための条件と対策
- 親権
- 間接強制
- 面会交流
離婚の際、子どもとの面会交流について取り決めをしていても、後日、約束が守られないケースがあります。正当な理由もなく子どもに会わせてもらえない、一方的に子どもとの接触を断たれる、という状況はつらいものです。
こうした事態に対する法的な措置として「間接強制」という手続きがあります。面会交流をさせない相手方にペナルティー(間接強制金)を科して面会を促す制度ですが、実行するためにはいくつかの条件が必要になります。
本コラムでは、面会交流における間接強制とはどのようなものか、実行するための条件や手続きの流れ、間接強制ができない場合の対策について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、面会交流における間接強制とは?
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(1)面会交流とは
面会交流とは、子どもと離れて暮らすことになった父母の一方が、定期的かつ継続的に、子どもと会って交流することをいいます。
離婚によって夫婦が別居すると、どちらか一方は子どもと一緒に暮らすことができなくなります。しかし法律上、離婚しても親子の関係は切れることなく続きます。
そのため、別居する親子には面会交流の権利が認められています。面会交流は、直接会って会話をすることはもちろん、一緒に遊んだり、ともに食事をしたりする交流や、電話やメール、手紙などの方法も含まれます。 -
(2)間接強制とは
間接強制とは、家庭裁判所が決定した調停や審判などで取り決められた義務の履行を確保するため、義務を負う人(義務者といいます)に対し、相当な一定額の金銭(間接強制金といいます)を債権者に支払うよう命じ、義務者の義務の履行を強制する手続きです。
具体的には、取り決めどおりに面会交流がなされなければ間接強制金を科すから、決められた通りに実行しなさい、という裁判所からの命令です。 -
(3)面会交流は親子の権利
離婚した後でも、離れてしまった親と子どもが定期的に触れ合って、愛情を感じる面会交流の場面は、子どもの成長に大きく影響すると考えられています。
そのため、子どもの気持ちや生活のスケジュールなどに十分配慮しつつ、離れて暮らす親にも面会交流という権利があるということを前提に、協力関係を築くことが重要です。
一方、残念ながら、子どもを監護するする親(監護親)が、子どもと別居している親(非監護親)との面会交流を嫌がって子どもを会わせようとしないというケースも少なからず存在します。面会交流は、直接強制(義務者の身体や財産に実力行使を行う方法による強制執行)の手続きになじまないため、同居親が面会交流を拒んでしまうと、面会交流を行うことはとても困難といえます。
このような状況で、別居親が子どもとの面会交流を実現するための強制執行の方法としては、間接強制の可否を検討することとなります。
2、間接強制が認められるために何をすべきか?
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(1)間接強制が認められるための2つの条件
【条件1】調停または審判で、面会交流に関する債務名義を取得している
間接強制は、裁判所の決定を実行しない義務者に対して、裁判所が実行を促すものです。
したがって、その内容が裁判所の調停または審判などで決定し、調停調書や審判書などの「債務名義」となっていることが前提となります。
裁判所を通さずに当事者同士で話し合って決めた場合などは、たとえその取り決めの通りに面会が行われていなくても、裁判所による間接強制を求めることはできません。
【条件2】面会交流の取り決めの内容が具体的であること
面会交流について間接強制の決定を出すためには、面会交流の内容につき、監護親の給付の内容が特定されている、すなわち、監護親がどのようにして非監護親に子どもと会わせるのかについて具体的に決められている必要があります。
面会交流の取り決めについて、間接強制が可能であると判断された裁判例の多くは、主に以下の点が特定されているかを重視しています。- 頻度
- 日時
- 面会交流の長さ(時間)
- 子の引渡しの方法(面会交流の場所、子の送迎の手順等)etc.
たとえば「1か月に2回、第2・4土曜日の11時から16時までの5時間、場所は元夫の自宅以外の場所として元妻が定める。引渡し場所はJR●●駅付近」といったような内容の取決めについて、間接強制が認められた裁判例があります。
一方、「1か月に2回、土曜日または日曜日に、1回につき6時間」というような待ち合わせ場所を決めておらず、曜日も特定し切れていない取り決めがなされた事例では、間接強制が認められませんでした。待ち合わせ場所などは、曖昧になりがちですが、後々同居親が面会交流を拒否した場合に備えて、明白にしておくことが大切です。 -
(2)子どもが嫌がっている場合の間接強制の可否、面会交流の可否
面会交流が拒否されるケースで、よく聞かれるのは、「子どもが嫌がっているから会わせられない」という言い分です。ここでは、間接強制の可否と、面会交流自体の可否とに論点を分けて検討する必要があります。
ア 最高裁の判断- 間接強制の可否
平成25年3月28日最高裁決定(民事判例集67巻3号864頁)では、子どもが非監護親面会交流を拒否しているという事情を以て、監護親に対する間接強制を否定する事情になるかが問題になりました。同裁判例では、上記のような「子どもが嫌がる」という理由だけでは、間接強制を否定することはできないという判断を示しました。 - 面会交流の可否
他方、上記平成25年最高裁決定では、面会交流自体の可否については、子どもが非監護親との面会を嫌がっているという事情につき、当初の取決め(調停、審判)の時とは異なる状況が生じたと評価できる場合には、裁判所で面会交流を禁止するほか、面会交流の方法について新たな内容による取決めを行うための調停や審判を行う理由になるとは述べています。
イ その後の下級審判例における判断- 間接強制の可否
その後の下級審裁判例を検討すると、間接強制の可否を検討するに当たって、面会交流が任意になされないおそれがあるか否かを論じた事例(大阪家決平成28年2月1日)があります。この事例では、裁判所は、過去に子どもが面会交流を行えた実績を記録した家庭裁判所調査官の報告書を根拠に、子どもに対する適切な助言、指導をすることによって面会交流を行えるようにする余地があると評価し、それにもかかわらず監護親が面会交流に応じていないとして、非監護親による間接強制の申立てを認めました。 - 面会交流の可否
子どもが中学生以上であるなど、判断能力が十分にあると認められた際は、子どもの気持ちを優先して面会交流の拒否が認められたケースもあります。
- 間接強制の可否
3、間接強制の申立ての方法
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(1)申立てができる人
調停調書や審判書、判決書に記載されている債権者が申立てを行えます。
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(2)申立先
調停、審判又は判決等を行った裁判所に申立てを行います。
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(3)間接強制の費用
間接強制を申し立てるには、以下の費用が必要となります。
- 債務名義1件につき、収入印紙2000円
- 連絡用の郵便切手(額や組み合わせについては、各裁判所にお問い合わせ下さい)
収入印紙は、申立書に貼り付けて提出します。貼った印紙には押印しないよう注意しましょう。
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(4)間接強制の必要書類
間接強制の必要書類は以下の通りです。
- 申立書1通、写し1通
- 執行力のある債務名義の正本(調停調書・審判書・判決書等)
- 債務名義の送達証明書
申立書は、裁判所のホームページの「子の引渡しの強制執行>間接強制」から書式と記載例をダウンロードできるため、参考にして記入するとよいでしょう。
債務名義の送達証明書は債務名義を取得した家庭裁判所から入手できます。また、確定証明書や執行書の提出が求められる場合もあります。
裁判所によっては、さらに書類が発生することもあるため、管轄の家庭裁判所のホームページで確認しておきましょう。 -
(5)間接強制の手続きの流れ
債務名義が作成された家庭裁判所に必要書類を提出し、申立てを行います。
その後、裁判所から、面会交流の義務者に「なぜ面会交流を拒否するのか」書面などで状況確認が行われます。
結果、申し立てを認めるに足ると判断された場合は、間接強制が決定します。ただし、相手方の理由によっては申し立てが棄却されることもあります。
4、間接強制ができない場合の対応策
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(1)そもそも間接強制が難しいケースもある
間接強制を申し立てたくても、難しいと考える方は少なくありません。厚生労働省が実施した「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」によると、離婚時の養育費・面会交流の取り決めの状況は以下のようになっています。
離婚時の面会交流の取り決め率- 決めていない……29.0%
- 口約束……32.5%
- 書面……17.0%
- 公正証書……19.4%
- 裁判所の調停・審判……2.1%
間接強制に必要な債務名義を獲得するための調停・審判を行ったケースは、わずか2.1%です。間接強制のための条件である債務名義を所有している方は大変少ないと推測されます。
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(2)面会交流調停を申し立てる
間接強制をしたくとも債務名義がない場合は、「面会交流の調停」を申し立てます。
面会交流の調停とは、家庭裁判所を介して、当事者である父母と中立的な調停委員2名で、面会交流について話し合い合意を目指す手続きです。お互いの事情や心情を話し合い、また、必要に応じて子どもの意思も確認しながら手続きが進められます。
調停で話がまとまらなければ、家庭裁判所が面会交流の可否や内容について審判を下します。調停や審判で面会交流の内容を取り決め、債務名義となる調停調書や審判書を作成すれば、間接強制の申し立てを行うことができます。 -
(3)離婚問題の実績がある弁護士へ相談する
面会交流を拒否された、間接強制を申し立てたい、そもそも間接強制ができないなどのケースでは、離婚問題の解決実績がある弁護士へ相談してみましょう。
そもそも間接強制は、面会交流を促す手段のひとつにすぎません。状況をヒアリングし、冷静な第三者として弁護士が間に入ることで、相手方が面会交流を拒む背景が明らかになり、難航していた交渉が進むことも珍しくありません。
ベリーベスト法律事務所では、さまざまな離婚トラブルの解決実績がある弁護士が在籍しています。おひとりで悩む前に、ぜひご相談ください。
5、まとめ
間接強制とは、理由もなく面会交流を拒否されたり、一方的に打ち切られたりした場合、当初の取り決めの実行を促す法的な手段です。しかし、一定条件に基づいた取り決めをしていること、調停調書や審判書などの債務名義があることなど、高いハードルが設けられているのが実情です。
面会交流拒否の対策は間接強制だけではありません。子どもと面会交流で会えずお悩みの場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスでは、離婚トラブルについて実績がある弁護士が、お話を親身に伺います。まずはお気軽にご相談ください。
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