課徴金減免制度|概要や申請の流れを詳しく解説
- 独占禁止法・競争法
- 課徴金減免制度
平成27年3月26日、公正取引委員会は、特定農業施設工事について、独占禁止法3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行ったとして、静岡県内の業者などに対し、独占禁止法7条2項に基づく排除措置命令および独占禁止法7条の2第1項の規定に基づく課徴金納付命令を行いました。これによって、静岡県内の業者に対しては、782万円の課徴金の納付が命じられたのです。
このような独占禁止法に基づく課徴金制度については、令和元年6月19日に「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」が成立したことを受けて、令和2年12月25日から課徴金減免制度の改正などを含む新制度が施行されました。
本コラムでは、課徴金減免制度の概要や申請の流れについて、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、課徴金減免制度とは? 改正の背景
令和元年に独占禁止法が改正され、令和2年の年末からは新しい課徴金減免制度が施行されています。
以下では、課徴金減免制度の概要や、改正されることに至った理由について解説します。
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(1)課徴金減免制度とはどのような制度なのか
課徴金とは、独占禁止法に違反する行為を抑制することを目的として、独占禁止法に違反した業者に対して金銭的な不利益を課す制度です。
課徴金が課される対象としては、何度かの法改正を経て、「不当な取引制限」(独占禁止法7条の2第1項)、「私的独占」(独占禁止法7条の9第1項、2項)、「一部の不公正な取引方法」(独占禁止法20条の2~6)にまで拡大されています。
そして、課徴金減免制度とは、「事業者や企業が自ら関与したカルテルや入札談合について、
その違反内容を自主的に公正取引委員会に報告した場合には、上記の課徴金が減免される」という制度のことを指します。
課徴金減免というインセンティブを与えることで、事業者が自主的に違反内容を報告して、違反内容解明を明らかにする資料の提出を促すことを目的とした制度です。
これにより、カルテルや入札談合の発見、違反内容の解明、競争秩序の早期回復が可能にされているのです。
なお、課徴金減免制度は、「不当な取引制限」についてのみ適用される制度であるため「私的独占」や「一部の不公正な取引方法」に関して適用されることはありません。 -
(2)課徴金減免制度が改正された背景
改正前の独占禁止法における課徴金減免制度では、課徴金減免の申請が行われた順位にしたがって、課徴金の減免率が自動的に適用されることになっています。
また、公正取引委員会には、事業者の調査への協力状況に応じて法定の減免率を増減する裁量はありませんでした。
そのため、課徴金の減免申請後に事業者がどれだけ調査に協力をしたとしても、それに対するインセンティブを与えることができないため、十分な調査協力が得られないと指摘されてきたのです。
このような不都合を解消するために、独占禁止法が改正されました。
事業者が事案解明に資する調査協力をしたときには、減免申請による課徴金の減免に加えて、調査協力減算制度が適用されることになったのです。
また、課徴金減免制度を利用できる事業者数の上限(旧制度では最大5社)を撤廃することにより、多数の事業者が調査対象となる事案であっても、減免を受けられることになりました。
2、課徴金減免制度の改正ポイント
独占禁止法の改正によって、課徴金減免制度はより利用しやすい内容になりました。
以下では、課徴金減免制度改正のポイントについて解説いたします。
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(1)調査協力減算制度の導入
課徴金減免制度が改正されたことによって、新たに調査協力減算制度が導入されることになりました。
調査協力減算制度とは、課徴金の減免申請の順位に応じた減免率に加えて、減免申請をした事業者が事件の真相解明に協力した程度に応じて減算率を加算される制度です。
調査開始前に第1順位で申告した事業者の課徴金が全額免除されるという点は改正前後で変わりありませんが、2位以下の減免率は、20%~5%の減免率になり、真相解明に協力した程度に応じて最大40%の減額率が加算されます。
さらに、従来の課徴金減免制度では、5社まで(調査開始日以後は最大3社)であった上限も撤廃をし、すべての事業者に対して、減免を受ける機会が与えられることになったのです。
改正前後の減免率をまとめると、以下の表のようになります。
(改正前)
申告順位 申請順位に応じた減免率 調査開始前 1位 全額免除 2位 50% 3~5位 30% 6位以下 なし 調査開始後 最大3社(※) 30% 上記以下 なし ※調査開始前と合せて5位以内である場合に適用
(改正後)
申告順位 順位に応じた減免率 協力による上乗せ 調査開始前 1位 全額免除 なし 2位 20% 最大40%を加算 3~5位 10% 6位以下 5% 調査開始後 最大3社(※) 10% 最大20%を加算 上記以下 5% ※順位に応じた減免率10%が適用されるのは、調査開始前と合せて5位以内である場合に限る
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(2)その他の改正ポイント
独占禁止法の改正では、課徴金減免制度の他にも、課徴金算定方法の見直し、罰則規定の見直し、弁護士依頼者間秘匿特権の導入などが行われました。
3、新しい課徴金減免制度における申請の流れ
課徴金減免制度利用の流れは、課徴金減免申請が公正取引委員会による調査開始日前に行われたか、調査開始日以後に行われたかによって異なります。
以下では、各段階における申請のおおまかな流れを解説いたします。
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(1)公正取引委員会の調査開始日前の場合
公正取引委員会の調査開始日前に課徴金減免制度を利用する場合の流れは、以下のとおりです。
- ① 公正取引委員会への事前相談
課徴金減免制度を利用するときには、実務上は、自分が現時点で申請をしたとしたら順位は何番になるのかを確認して、減免率を調べたうえで、申請をすることになります。
改正前は、第6順位以下では、課徴金の減免は受けられなかったために、この確認には減免枠が空いているかどうかを確認するという意味がありました。
改正後は、自社の申請順位に応じた減免率を知るために行われています。 - ② 減免手続の申請の提出(報告書[様式1号])の提出
課徴金減免制度を申請するためには、所定の申請様式(様式1号)に違反行為の概要を記載したのちに、公正取引委員会に電子メールで提出する必要があります。
電子メールが受理されたのちに、受付順位が仮確定されることになります。 - ③ 報告書(様式2号)および資料の提出
様式1号の報告書を提出後、社内調査を行い、様式2号の報告書において詳細な違反行為の報告と必要な資料を提出します。 - ④ 正式な申請受理の通知
上述した報告書が受理されると、正式な順位確定の通知が公正取引委員会から届きます。 - ⑤ 協議の申出書(様式4号)の提出
新たに導入された調査協力減算制度を利用するために、公正取引委員会に協議の申出書(様式4号)を提出します。 - ⑥ 協議・合意
事業者は、公正取引委員会との間で、報告内容について協議をして、減算率について合意をします。その後、事業者は、合意した協力内容を合意で定めた期限までに履行をします。
一方で、公正取引委員会は、事業者の報告内容による真相解明に資する程度を評価して、減算率を決定します。 - ⑦ 課徴金が減算された納付命令または課徴金の免除
公正取引委員会が決定した減算率によって課徴金額が減免されます。
- ① 公正取引委員会への事前相談
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(2)公正取引委員会の調査開始日以後の場合
公正取引委員会の調査開始日以後に課徴金減免制度を利用する場合の流れは、以下のとおりです。
- ① 公正取引委員会への相談
- ② 報告書(様式3号)および資料の提出
- ③ 正式な申請受理の通知
- ④ 協議の申出書(様式4号)の提出
- ⑤ 協議・合意
- ⑥ 課徴金が減算された納付命令
調査開始日前の流れと異なる部分としては、公正取引委員会へ提出する報告書の様式が異なります。調査開始日以後の課徴金減免申請の場合には、公正取引委員会は、違反行為についてある程度の情報を有しています。
そのため、調査開始前のような2段階の報告ではなく、様式3号の報告書によって、様式2号に準じた詳細な報告をする必要があるのです
4、企業が留意すべきこと
課徴金減免制度が改正されたことによって、企業としては、調査協力減算制度利用に向けた対応が求められるようになりました。
改正法施行前は、申請者の順位によって機械的に順位が割り振られ、減免率が決められてきましたが、改正法施行後は、申請順位だけでなく、公正取引委員会への協力内容や程度によっても、減免率が変わることになました。
したがって、適切な減算率の適用を受けるためには、公正取引委員会への協力に向けた社内体制の早期構築と、公正取引委員会との交渉を適切に行うための外部弁護士との連携が不可欠です。
企業が適切な対応を行うためには、普段から社外弁護士と連携しておくことが重要となります。
ベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスの活用を、ぜひご検討ください。
5、まとめ
令和2年末の独占禁止法改正法施行に伴い、新しいルールに基づく課徴金減免制度が実施されています。
課徴金の対象となる行為を行った可能性がある企業は、新たな制度を利用することによって、大きなインセンティブを得られる可能性があるでしょう。
課徴金減免制度などの企業法務の相談や顧問弁護士をご検討の企業は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
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