飲食店の労働時間に「特例」は適用されるのか?

2024年05月23日
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飲食店の労働時間に「特例」は適用されるのか?

従業員を雇用する飲食店には、労働基準法のルールが適用されます。

労働時間のルールも原則として通常どおりですが、「特例対象事業場」に該当する場合には法定労働時間が44時間に延長される点や、1週間単位の非定型的変形労働時間制が認められることがある点に留意しましょう。ただし、1週間単位の変形労働時間制を採用する場合には、週44時間の特例は使えず、1週間当たり40時間で変形労働時間を組む必要があります。1ケ月単位の変形労働時間制の場合は週44時間の特例の利用が可能です。

本コラムでは、労働時間の基本的な考え方や、飲食店に適用される労働時間の特例などについてベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。

1、労働時間の基本的な考え方

まずは、労働時間に関する基礎知識を解説します。

  1. (1)所定労働時間と法定労働時間

    「所定労働時間」と「法定労働時間」は、労働時間の種類を区別する際の基準となります。

    「所定労働時間」とは、労働契約または就業規則で定められた労働時間です
    所定労働時間を超えた場合は「残業」となり、残業代が発生します。

    「法定労働時間」とは、労働基準法に基づく労働時間の上限です
    原則として「1日8時間・1週40時間」とされています(労働基準法第32条)。
    法定労働時間を超える労働時間は「時間外労働」となります。

  2. (2)時間外労働を命ずるために必要な「36協定」

    使用者が労働者に時間外労働を命ずるためには、事業場の労働者の過半数で組織される労働組合、または労働者の過半数代表者との間で労使協定(=36協定)を締結しなければなりません(労働基準法第36条第1項)。

    36協定では、時間外労働・休日労働を命じることができる条件や範囲などが定められます。使用者が労働者に時間外労働を指示する際には、36協定の規定を順守しなければいけません。

    なお、36協定によって許容される時間外労働の時間数は、原則として「1か月45時間・1年360時間」に制限されています(同条第3項、第4項)。
    ただし、例外的に、36協定において「特別条項」を定めれば、通常予見することのできないような業務量の大幅な増加等に伴う臨時的な必要性がある場合に限り、上記の限度時間を超えて時間外労働を指示できることがあります(同条第5項、第6項)。

  3. (3)時間外労働に対して支払うべき割増賃金

    労働者が時間外労働をした場合、以下のように割増賃金を支払わなければいけません(労働基準法第37条第1項)。

    月60時間以下の部分 通常の賃金に対して125%以上
    月60時間を超える部分 通常の賃金に対して150%以上

    ※深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)については、通常の賃金に対して25%以上を加算。休日労働は、通常の賃金に対して35%以上を加算。

    なお、所定労働時間を超えるものの、法定労働時間を超えない労働時間は「法定内残業」と呼ばれます。
    法定内残業に対しては、割増賃金ではなく通常の賃金を支払えば足ります(深夜労働の場合は、通常の賃金に対して25%以上を加算)。

2、飲食店について認められる労働時間の特例

以下では、労働時間のルールについて特例が認められる場合について解説します。

  1. (1)特例措置対象事業場|法定労働時間が週44時間に延長

    飲食店は「特例措置対象事業場」にあたることがあり、その場合は特例として、法定労働時間が週44時間に延長されます。

    特例措置対象事業場にあたるのは、以下の事業を営み、かつ常時使用する労働者が10人未満の事業場です

    1. ① 商業
      卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業

    2. ② 映画・演劇業
      映画の映写、演劇、その他の興業の事業

    3. ③ 保健衛生業
      病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業

    4. ④ 接客娯楽業
      旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業


    飲食店は接客娯楽業にあたるため、常時使用する労働者が10人未満であれば特例対象事業場に該当します。

    常時使用する労働者の数は、会社全体の人数では無く、支店や営業所等の事業場単位(飲食店の場合は、主に店舗単位)で判断されます。
    会社全体で雇用している労働者が10人以上でも、ひとつの店舗で雇用している労働者が9人以下であれば、その店舗は特例措置対象事業場に該当します。
    また、特例措置対象事業場では、原則的な「週40時間」ではなく、「週44時間」の法定労働時間が適用されます(労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2第1項)。
    したがって、労働者の労働時間が1週間あたり44時間を超えなければ、時間外労働の割増賃金を支払う必要がありません

    なお、36協定を締結していなくても、週44時間までは労働者を働かせることができます。

  2. (2)週単位の非定型的変形労働時間制

    小売業・旅館・料理・飲食店のうち、常時雇用する労働者が30人未満の事業場では、労使協定を締結することにより「1週間単位の非定型的変形労働時間制」の導入が認められています(労働基準法第32条の5)。

    1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入すれば、法定労働時間(週40時間)を超えない範囲で、1日の労働時間を10時間まで延長することができます
    たとえば週5日勤務(月曜~金曜)の労働者に対して、月曜だけ10時間、火曜から金曜は7時間(=週38時間)の労働を命じることも可能です。

    1週間単位の非定型的変形労働時間制は、繁閑の差が激しい飲食店にとって、労働時間を弾力的に設定できる点で有用です。

3、労働時間にあたる? あたらない? 飲食店で問題になりやすい事例

飲食店において、労働時間の管理や残業代の支払いを適切に行うためには、労働時間にあたるかどうかの判断基準を正しく理解することが大切です。

「労働時間」とは、客観的に見て、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(最高裁平成12年3月9日判決)。
名目的には「休憩」「始業前」「終業後」などであっても、実質的な観点から労働者が使用者の指揮命令下にあると判断される場合は、労働時間に該当することに注意しましょう。

以下では、飲食店において、労働時間にあたるか否かの判断が問題になりやすい事例を解説します。

  1. (1)朝礼の時間

    飲食店では、開店前に「朝礼」などの名目で集会を行うことがあります。

    朝礼の時間は、労働者の参加が義務付けられている限り、労働時間にあたると考えられます。
    労働者は使用者の指示に従って朝礼に参加しており、かつ朝礼では業務に関する事柄が話題に上がるのが通常であって、労働者が使用者の指揮命令下にあると評価すべきためです。

    したがって、開店前に朝礼を行う場合には、その時間も労働時間に算入したうえで、労働者に対して賃金を支払う必要があります

  2. (2)着替えの時間

    飲食店では、労働者に制服の着用を義務付ける場合があります。
    この場合、労働者は実際に店舗へ立つ前に、出勤時に着用していた私服から制服に着替えなければなりません。
    また、勤務が終了して帰宅する際にも、制服から私服への着替えが必要になります。

    私服から制服、あるいは制服から私服への着替えの時間は、労働時間にあたると考えられます。
    制服の着用は使用者の指示に基づくものであり、それに伴って不可避的に発生する着替えの時間については、労働者が使用者の指揮命令下にあると評価すべきためです

    使用者としては、「家から制服を着てくることもできるじゃないか」「制服を着たまま帰ればいいじゃないか」などと主張したいかもしれません。
    しかし、店舗の制服のまま通勤することは社会通念上一般的とはいえないため、そのような主張に合理性があるとはいえません。
    したがって、労働者が私服から制服、または制服から私服に着替えなければならない場合は、着替えの時間を労働時間に算入したうえで賃金を支払う必要があるのです。

  3. (3)まかないを作ってもらうのを待っている時間

    飲食店では、労働者の福利厚生として「まかない」を提供することがあります。
    まかないを作ってもらうのを労働者が待っている時間が、労働時間に該当するかどうかは状況次第で異なります

    まかないを待つ時間において、労働者が労働から完全に解放されている場合には、その時間は労働時間にあたりません。
    これに対して、たとえば客が来たら対応しなければならないなど、労働者が労働から完全に解放されていない場合には、まかない待ちの時間も労働時間にあたるのです。

    とくに店舗の開店時間中にまかないを提供する場合は、まかない待ちの時間が労働時間に該当するか否かについて、慎重に検討する必要があります。

4、従業員とのトラブルは弁護士に相談を

労働時間に関して従業員とトラブルになった場合は、弁護士に相談してください。
弁護士は、トラブルに伴う会社の損害を最小限に抑えるため、迅速かつ適切な事態の収拾を図ることができます。

また、弁護士には労働時間に関する問題のほかにも、残業代・ハラスメント対策・社内規程の見直しなど、人事・労務管理に関する事柄について相談することができます。
とくに労務コンプライアンスを強化したいと考えられている場合には、顧問弁護士を契約することもご検討ください

5、まとめ

飲食店にも労働時間に関するルールが適用されますが、特例対象事業場における法定労働時間の特例や、1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入が認められることがあります。
自社や店舗の状況をふまえたうえで、各種制度を利用ながら効率的に労務管理を行いましょう。

ベリーベスト法律事務所は、従業員とのトラブルや労務コンプライアンスに関する事業者のご相談を承っております
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