小学校で子ども同士がケンカしてケガ。 代理監督者責任とは?

2022年02月28日
  • 学校事故
  • 代理監督者責任
小学校で子ども同士がケンカしてケガ。 代理監督者責任とは?

小学校で子どもがケンカしてケガをした場合、だれに対して、どのような責任を追及できるのでしょうか?

ケガが重傷である場合には治療費も発生しますし、完治せずに後遺症が残る可能性もあります。加害者の子どもやその親だけでなく、学校の責任も問いたい、という方もおられるでしょう。

本コラムでは、小学校で子ども同士がケンカしてケガをした場合の責任の所在や「代理監督者責任」について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説いたします。

1、小学校で子どもがケガ。誰に責任追及できる?

  1. (1)ケンカ相手の子どもに対する請求

    わが子がケンカでケガを負わされたとき、まずは、当事者でありケガをさせた張本人である、相手の子どもに対して責任を追及することが考えられます。
    この場合、民法上の「不法行為責任」が根拠となります(民法709条)。

    ただし、不法行為責任は、加害行為をした当事者に責任能力があることが条件となります
    責任能力とは、「自分のやった行為が違法であることを認識できること」です。加害行為の内容によりますので、一概には言えないものの、一般には11歳から12歳程度の子どもにも責任能力が認められやすいため、相手が小学生でも高学年である場合には、不法行為責任を問える可能性があります。

    加害者である子どもに責任能力が認められた場合には、その子ども本人が賠償責任を負います。
    ただし、子ども自身が小学生や中学生であったら、経済力がありません。そのため、せっかく賠償義務が肯定されたとしても、何ら支払いがなされないというおそれがあります。

  2. (2)ケンカ相手の子どもの親に対する請求

    ケンカ相手の親に対する損害賠償の請求は、二つのパターンに分けられます。

    まず、子どもの責任能力が認められない場合に、その子どもに代わって保護者である親(親権者)が責任を負うというパターンです。
    この場合、法的根拠は民法714条1項に定められた、「監督義務者の責任」となります。

    もう一つは、子ども自身が民法709条1項に基づき賠償責任を負う場合に、子どもに加えて親も同時に同条の不法行為責任を負う、というパターンです。
    この場合に親の責任が認められるためには、親の子どもに対する普段のしつけや教育が不適切であったことを理由としてケンカが起きて被害者がケガをした、という因果関係の立証が必要となります。

  3. (3)学校の教員や学校長に対する請求

    ケンカ相手の子どもやその親だけでなく、学校の教員や学校長に対して賠償責任を求められるケースもあります。
    この場合の法的根拠は、民法714条2項に基づく「代理監督者としての責任」です。代理監督者については、次章で詳しく説明します。

    なお、教員個人に法的な賠償責任がある場合でも、その学校が公立小学校である場合には、教員本人に損害賠償を請求することは認められていません。国家賠償法により、公務員個人に対する請求はできないことが規定されているためです。この場合には、教員個人ではなく、学校を相手に賠償請求を行うことになります(国家賠償法1条)。
    一方で、小学校が国立または私立学校である場合には、教師は公務員ではなく、独立行政法人または私立学校法人に勤務する従業員となります。このため、教員の責任を問いながら、同時に学校にも賠償を求める、ということができるのです。
    この場合には、教員を従業員として雇っている使用者責任を学校に問う、という法的構成になります(民法715条)。

2、代理監督者責任とは?

「代理監督者」とは、責任無能力者(責任能力が認められない子ども)の監督義務者(通常は両親(親権者)、保護者)に代わって、子どもを監督するべき人のことです。例えば、幼稚園長・小学校長・精神病院長などです。これらの者が、監督義務者に代わって監督する理由は、契約によるか慣習その他の事情によるかを問いません。

監督を怠らなくても加害行為を防止することはできなかったということを証明することができれば、代理監督者は賠償義務を負いません
代理監督者の監督は限定された時間・空間におけるものですから、このような証明は、監督義務者に比べれば比較的容易であるということができます。
ただし、あくまでも具体的な事案ごとに判断されることに注意が必要です。

たとえば、「正規の授業中に生徒同士がふざけてケガをした場合に、担任教師の代理監督者としての責任が認められた」というケースがあります。
一方で、運動会の準備中や放課後の事故については、学校側の責任が否定されたケースもあるのです。
つまり、学校で起きたケンカや事故であっても、それがどんな場面で起きたのかによって、学校側に責任を問えるかどうかの結論が変わってきます
詳細な判断については、弁護士などの専門家にケンカの起きた経緯や具体的な場面などを伝えたうえで検討してもらうことをおすすめします。

3、損害賠償を請求できる項目

  1. (1)治療費

    ケンカによってケガをした場合、その治療にかかった費用は、加害者に請求することができます。
    診察、検査、レントゲンなどの画像診断、薬代、そして、診断書の費用なども相手に請求できます。

  2. (2)通院交通費

    通院するためにかかった交通費も、治療に必要な費用として、加害者に請求することができます。ただし、公共交通機関であれば問題ないですが、タクシー利用についてはケース・バイ・ケースの判断がなされます。

  3. (3)慰謝料

    ケンカによってケガをした場合は、慰謝料を請求することができます
    ケガの慰謝料の金額としては、一般的には交通事故で用いられている慰謝料基準が参考にされます。
    原則として、ケガが重く、治療期間が長いほど、慰謝料の金額は高くなります。
    なお、仮にケガによって後遺障害が残った場合には、後遺障害に関する慰謝料も請求することができます。

  4. (4)物的損害

    ケンカの際に、衣服や持ち物などが破れたり壊れたりすることがあります。その場合には、その物に関する損害についても賠償を求めることができます。

4、損害賠償請求の流れ

  1. (1)示談を求める

    「示談」とは相手に対して請求書を送るなどして直接的に損害賠償を求め、加害者と合意が成立することをいいます。
    賠償の内容を相手に説明して、謝罪や支払いを請求し、相手と合意ができたら示談が成立する、という流れになります。

    示談のメリットは、相手と直接やりとりすることで相手の意見や事件の詳細について確認ができることや、協議が円滑に進めば、被害者が納得のいく解決が得られるという点にあります。
    場合によっては、相手ときちんと話ができて、誠心誠意をもって謝罪してくれれば、賠償は要らないという気持ちになる、ということもあるでしょう。

    示談のデメリットは、当事者同士が直接やり取りすることで、互いに感情が先立って冷静に話ができない場合があることです
    特に、親同士の話し合いでは、お互いに自分の子どもをかばって、事実確認さえ進まないことも珍しくありません。こうなると、かえってトラブルが大きくなり、解決が遠のいてしまうリスクがあるのです。

    また、当事者同士の話し合いでは、たとえ解決する意欲があっても、妥当な賠償額の判断が難しく、話がストップしてしまうこともあります。
    さらに、賠償額が決定しても、最後に交わす示談書面が法的に適切な内容でなければ、あとから紛争がぶり返す恐れもある点に注意が必要となります。

  2. (2)裁判所の調停を利用する

    相手と直接話し合いができない場合には、裁判所調停制度を利用することもできます。
    「調停」とは、裁判所の調停委員が間に入り、被害者と加害者が事件について話し合い、合意に向けて協議をする手続きです。
    当事者間で合意が得られると、調停が成立して、合意の内容は調停調書に記載されます。
    調停調書には裁判の判決と同じ法的効力があり、相手が支払いをしない場合は強制執行によって回収することもできます。

    調停のメリットは、裁判所という公の場所で調停員という第三者に間に入ってもらうことにより、冷静に話し合いができるという点です。お互いに顔を合わせることもありませんので、双方ともに言い分を冷静に伝えることができます。
    また、賠償額についても調停委員がある程度の相場を示してくれる場合もあり、当事者だけで進める場合に比べて、安心感が得られるでしょう。

    調停のデメリットは、あくまで話し合いの場であるため、どちらかが納得できなければ調停は成立せずに手続きが終わってしまうことです。この場合は、改めて裁判に持ち込むことになるでしょう。

  3. (3)訴訟を提起する

    調停でも決着がつかなかった場合には、通常は、損害賠償を求めて訴訟を提訴することになります。訴訟とは、請求する側が原告となり、相手を被告として裁判所に訴える法的手続きです。なお、調停を経ずにいきなり訴訟提起することも可能です。
    原告と被告は、お互いの主張を証拠に基づいて提出し、裁判官が双方の言い分を検討したうえで、判決を下します。

  4. (4)弁護士に代理人を依頼

    示談を進める場合でも、裁判所の制度を利用する場合でも、被害者本人やその保護者だけで手続きを進めるのは困難といえます。
    損害賠償請求の場面では、あくまで、請求する側、つまり被害者側に、法的な主張を説得的に展開し、証拠も選びながら交渉したり、立証したりする責任があるからです。
    また、示談や裁判を自分で進めていくのは、大変なストレスにもなります。
    特に、お子さまのこととなると、保護者の負担は大きく、仕事や日常生活に支障が生じるほどストレスが大きくなるケースもあります。早めに弁護士に相談して、代理人としての手続きを依頼することで、お仕事はもちろん、大切なお子さまのケアや今後の学校生活についても、きちんと向き合うことができるでしょう。

    また、学校で起こるトラブルには、学校ならではの問題点や法的なポイントがあります。学校でのトラブルに経験が豊富な弁護士に依頼して、十分な説明を受けながら納得いく方法で手続きを進めることをおすすめします

5、まとめ

子ども同士のケンカはよくありますが、子どもがケガをした場合には、「治療費を誰が負担するのか」「慰謝料はどうなるのか」といった問題が生じます。
しかし、学校でのトラブルはやり方次第でかえって紛争が大きくなったり、子どもの学校生活に支障が出たりする可能性があるため、慎重に進める必要があるのです。

また、損害賠償請求をする相手が、相手の子どもなのか、その保護者なのか、学校なのかといった判断も、ケース・バイ・ケースで異なってきますその判断は決して簡単ではありません

子ども同士のケンカで損害賠償の請求を検討されている場合は、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスにお任せください。トラブルの解決に向けて、親身にサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています