遺産分割協議書には現金も記載すべき? 現金を相続する場合の注意点

2023年07月11日
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遺産分割協議書には現金も記載すべき? 現金を相続する場合の注意点

被相続人が遺言を残さずに亡くなり、遺産の中に現金が含まれている場合には、預貯金と同様に現金も相続人による遺産分割協議によって分ける必要があります。

また、遺産分割協議が成立した場合には、基本的には遺産分割協議書を作成することになりますが、現金も協議書に記載する対象となります。

本コラムでは、相続財産に現金が含まれる場合の遺産分割協議書の記載方法や、現金を相続する際の注意点について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。

1、そもそも遺産分割協議書とは?

まず、「遺産分割協議書」という書類の概要や、遺産分割協議書の作成が必要になるケースについて解説します。

  1. (1)遺産分割協議書とは

    遺産分割協議書とは、相続人たちによる遺産分割協議で合意した内容が記載された書面です。

    被相続人が亡くなり、遺言書がない場合には、遺産を具体的に分ける際に、相続人たちによる遺産分割協議によって、遺産の分割方法や相続割合などを決定することになります。
    遺産分割協議書には協議の結果がまとめられているため、「誰が、どのような財産を、どのような割合で取得するのか」などが記載されることになるのです。

  2. (2)遺産分割協議書の作成は必要?

    遺産分割協議書は、必ず作成しなければならないわけではありません。
    以下では、遺産分割協議書の作成が必要なケースと不要なケースについて、それぞれ解説します。

    ① 遺産分割協議書の作成が必要なケース
    遺産分割協議書を作成する目的は、遺産分割での合意内容を明確にしておくことにあります。
    口頭の合意だけでも遺産分割協議は有効に成立しますが、口約束だけで終わらせてしまうと、約束を破る相続人があらわれたり、合意内容をめぐって後日にトラブルが発生したりするおそれもあります。
    したがって、遺産分割協議をしたなら、原則として遺産分割協議書を作成した方がよいでしょう

    また、遺産分割協議書は、その後の相続手続きを進めていくために必要になることがあります。
    とくに以下のような相続手続きを検討されている方は、後々に遺産分割協議書が必要になりますので、必ず作成するようにしましょう。

    • 預貯金の払い戻し
    • 不動産の相続登記
    • 有価証券の名義変更
    • 相続税の申告


    ② 遺産分割協議書の作成が不要なケース
    遺産分割協議書は、他の相続人とのトラブルを防止する目的で作成するものであるため、相続人が一人しかいないケースでは遺産分割協議書を作成する必要はありません。
    また、遺言によってすべての遺産の相続方法が指定されている場合にも、相続人による遺産分割協議をする必要がないため、遺産分割協議書の作成も不要となるのです

2、遺産分割協議書には現金も記載すべき?

以下では、相続財産に現金が含まれる場合に、遺産分割協議書に記載する方法について解説します。

  1. (1)現金も遺産分割協議の対象となる

    相続においては、可分債権(分けることができる債権)は、法律上当然に分割されるため、遺産分割の対象にはならないと考えられています。
    しかし、現金は債権ではなく動産であるため、遺産分割の対象に含まれます。

    したがって、金庫内の現金やタンス預金、へそくりや財布のなかの現金などは、遺言により相続方法が指定されていなければ、すべて、相続人による遺産分割協議によって分けなければなりません

  2. (2)遺産分割協議書への記載方法

    現金が遺産分割協議の対象になるということは、遺産分割協議書への記載も必要になるということです。
    遺産分割協議書への現金の記載方法にはいくつかのパターンがありますが、具体的な例としては以下のようなものがあります。

    • Aは、被相続人のすべての現金を取得する
    • Aは、被相続人の現金○○万円を取得する
    • Aは、被相続人の現金○○万円を取得し、残りの現金はすべてBが取得する
    • Aは、被相続人の現金○○万円を取得し、Bは被相続人の現金○○万円を取得する


    遺産分割協議書に現金を記入する際には、金額を記載すべきどうか迷う方も多々おられます。
    原則的には、金額を記載しても記載しなくても、どちらの方法でも問題はありません。
    ただし、金額を記載する際には、それ以外の現金が見つかった場合の対応も記載しておかなければ再度遺産分割協議を行う必要が生じてしまう点に注意してください

3、現金や預貯金を相続する場合の注意点

現金や預貯金を相続する場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)遺産分割協議前に現金を勝手に受け取らない

    被相続人の現金は遺産分割の対象になるため、遺産分割前に現金を勝手に受け取ったり、使ってしまったりすることは避けましょう。
    遺産分割前の現金は、相続人全員による共有状態になります。
    そのため、勝手に現金を使ってしまうと他の相続人から遺産の使い込みを疑われてしまうのです。

    使い込みを疑われた場合には、他の相続人から不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求を受けるリスクが生じる点に注意してください

  2. (2)現金を隠すのはNG

    現金は、預貯金などと異なり、存在や金額が客観的にわかりにくい財産といえます。

    預貯金であれば、金融機関に照会をすれば、残高や過去の入出金の履歴などが明らかになります。
    一方で、現金の場合、他の相続人がその存在を知らなければ、隠してしまうことで遺産分割の対象から除外することもできてしまうのです。

    しかし、他の相続人に知られないように現金を隠すという行為は、刑法上の横領や窃盗等に該当するおそれがあります
    また、税務調査によって現金隠しが明らかになれば、過少申告による加算税、重加算税、延滞税といったペナルティーを受けるおそれもあるのです。

  3. (3)預貯金も遺産分割協議の対象になる

    以前は、預貯金は、被相続人の死亡によって当然に分割されるものだとして、遺産分割の対象にはならないと考えられていました。

    しかし、平成28年に最高裁判所が預貯金も遺産分割の対象になると判断したことにより、現在では、遺産分割が成立しなければ預貯金の払い戻しはできなくなっています。
    したがって、被相続人の遺産に預貯金が含まれる場合は、現金と同様に、相続人による遺産分割協議が必要になります

    なお、遺産分割協議前に預貯金を引き出す必要がある場合には、預貯金の仮払制度を利用することで、1金融機関あたり最大150万円まで(相続開始時の預貯金額の3分の1に、各相続人法定相続分を乗じた額まで)の預貯金を払い戻すことができます。

4、遺産分割協議におけるお悩みや問題は弁護士にご相談を

遺産分割協議に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)トラブルのない遺産分割協議書の作成が可能

    例外的なケースを除いて、遺産分割協議が成立した場合には遺産分割協議書の作成が必要になります。
    遺産分割協議書は、相続人同士のトラブルを回避し、その後の相続手続きのために必要になる書類であるため、正確な記載内容が求められます。

    遺産分割協議書の記載は、単に話し合いで合意した内容をそのまま記載すればよいのではなく、「誰が、どのような財産を、どのような割合で、どのように相続するのか」などについて客観的に明確になるように記載しなければなりません。
    財産ごとに記載すべき項目や内容も異なってきますので、トラブルのない遺産分割協議書を作成するには、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります

    遺産分割協議書の内容に不備があった場合には、その内容での相続手続きができなくなり、再び遺産分割協議書の作成をしなければならないといった負担が生じます。
    そのため、遺産分割協議書の作成は、弁護士に依頼することをおすすめします。

  2. (2)遺産分割におけるトラブルも解決できる

    遺産分割協議書を作成する前提として、相続人による遺産分割協議が必要になります。
    相続人同士で円満に話し合いができる場合もあれば、遺産の分割方法をめぐって対立が生じて冷静に話し合うことが困難になる場合もあるのです。

    弁護士であれば、相続人に代わって、遺産分割協議に参加することができます
    第三者が参加することで、相続人同士のトラブルも解決しやすくなります。
    また、特別受益や寄与分がある事案では、弁護士を依頼して適切な立証を行うことによって、有利な内容で遺産分割協議をまとめることができる可能性を高められます。

5、まとめ

被相続人の現金も遺産分割の対象になりますので、少額だからと勝手に使ってしまうのではなく、必ず、相続人による遺産分割協議によって分けるようにしましょう。
また、遺産分割協議が成立した場合には、その内容を遺産分割協議書にまとめることが必要となります。
遺産分割協議書の作成にあたっては、専門的な知識が必要になりますので、弁護士に相談することをおすすめします。

遺産相続に関して疑問点がある方やお悩みを抱かれている方は、まずはベリーベスト法律事務所までご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています