相続分の譲渡と遺産分割協議|譲渡における注意点を解説

2024年08月14日
  • 遺産分割協議
  • 遺産分割協議
  • 相続分の譲渡
相続分の譲渡と遺産分割協議|譲渡における注意点を解説

沼津市が公表している令和5年度の統計情報によると、沼津市内における令和4年の出生者数は945名、死亡者数2922名でした。出生者数は減少傾向にありますが、一方で死亡者数は年々増加傾向にあります。

遺産の相続を辞退する方法のひとつが「相続分の譲渡」です。相続分を譲渡すると、遺産分割協議への参加が不要となります。遺産分割に関わりたくないと考えている方は、相続分の譲渡を行うことが、相続放棄と並んで有力な選択肢でとなるでしょう。

本コラムでは、相続分の譲渡について、遺産分割協議への影響や注意点などをベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。


遺産相続を弁護士に相談 遺産相続を弁護士に相談

1、相続分の譲渡とは?

「相続分の譲渡」とは、ある相続人が有する相続分を、別の者へ譲渡することをいいます

相続分の譲渡が行われると、譲渡人は相続人でなくなる反面、譲受人が相続人となります。一般的には、遺産相続に関わりたくないと考えている相続人が他の相続人に対して相続分を譲渡したり、相続人以外で遺産(相続財産)が欲しい人を見つけてきて相続分を譲渡したりするケースが多いといえます。

なお相続分の譲渡と同様に相続権を手放す方法として、「相続放棄」があります。
相続分の譲渡とは異なり、相続放棄をした場合には、その人が相続人でなくなるだけです。

相続放棄をした人が有していた相続分は、他の相続人に帰属することになります。
ただし、相続放棄によって同順位の相続人がいなくなる場合は、次順位の相続人に相続権が移動します。

(例)
被相続人の子が相続放棄をした結果、相続人である被相続人の子がいなくなった場合、被相続人の直系尊属(父母など)に相続権が移動する


また、次順位の相続人への相続権の移動は、相続権の譲渡の場合には発生しません。

(例)
被相続人の子が相続分を譲渡した結果、相続人である被相続人の子がいなくなっても、被相続人の直系尊属(父母など)に相続権は移動しない

2、相続分の譲渡による遺産分割協議への影響

相続分を譲渡した者(=譲渡人)は、譲渡によって相続権を失います。
したがって、譲渡人は遺産分割協議に参加できなくなります。

これに対して、相続分を譲り受けた者(=譲受人)は、相続権を取得します。
したがって譲受人は、譲渡人の代わりに遺産分割協議へ参加することになります(多数説)。
また、他の相続人は、譲受人を遺産分割協議に参加させなければ有効に遺産分割を行うことができなくなります。

まずはお気軽に
お問い合わせください。
電話でのお問い合わせ
【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
メールでのお問い合わせ一覧
営業時間外はメールでお問い合わせください。

3、相続分の譲渡に関する注意点

以下では、相続分の譲渡に関して留意しておくべき点を解説します。

  1. (1)相続分の譲渡は遺産分割の完了前に限られる

    相続分の譲渡が認められるのは、遺産分割の完了前に限られます(民法905条1項)。

    遺産分割を行う際には、相続人全員が参加する必要があります。
    したがって、遺産分割を行う時点において、相続人が誰であるかが確定していなければならないのです。

    遺産分割が完了した後も相続分の譲渡を認めてしまうと、遺産分割のやり直しが必要になるなどの混乱が生じてしまいます。
    このような事態を避けるため、法律的には、相続分の譲渡は遺産分割の完了前に限って認められると解されています。

  2. (2)他の相続人は、譲渡された相続分を取り戻せる

    相続分の譲渡は、各相続人が単独の判断で行うことができます。
    そのため、他の相続人には、相続分の譲渡自体を阻止する手だてがありません。
    そして、相続分が相続人以外の第三者に譲渡された場合、他の相続人は相続分を譲り受けた第三者との間で遺産分割協議を行うことになります。
    親族同士で遺産分割協議を行う場合に比べて、見ず知らずの第三者と遺産分割協議を行う場合は、トラブルが生じるリスクが高まってしまいます。
    そのため、相続分の譲渡によるトラブルから他の相続人を保護する目的で、相続分の取戻権が認められているのです

    共同相続人のひとりが遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡した場合、他の共同相続人は、価額および費用を償還することで、その相続分を譲り受けることができます(民法第905条第1項)。
    他の相続人が相続権を取り戻せば、見ず知らずの第三者が遺産分割協議に参加することを回避できます。

    なお、相続分の取戻権を行使できる期間は1か月以内とされています(同条第2項)。
    1か月の期間がいつから起算されるかについては、以下の三つの時点のうちのいずれかとなります。

    • ① 相続分を譲渡した時点
    • ② 取戻権者が相続分の譲渡の通知を受けた時点
    • ③ 取戻権者が相続分の譲渡の事実を知った時点


    なお、通説は、法律関係の早期安定の観点から、①が相当と解しています。

  3. (3)相続分を譲渡しても、可分債務の支払義務は残る

    相続が発生した際、被相続人が死亡時に負っていた可分債務(金銭債務など)は、法定相続分に従って法定相続人間で法律上当然に分割されると解されています(最高裁昭和34年6月19日判決)。
    そのため、可分債務は遺産分割の対象になりません。
    そして、相続分の譲渡を行った場合でも、可分債務の当然分割の効果は維持されます。
    つまり、相続分の譲渡によって遺産を相続できなくなっても、被相続人が負っていた債務だけは相続してしまう場合もあるのです

    遺産分割協議に参加できれば、その中で可分債務の(内部的な)負担を他の相続人に求めることもできます。
    しかし、相続分を譲渡した場合は、遺産分割協議に参加できません。
    結果的に、相続した債務を自ら支払わざるを得ず、経済的に厳しい状況に追い込まれてしまうおそれがあるのです。

    債務の相続を回避したい場合は、相続分の譲渡ではなく「相続放棄」を選択しましょう
    相続放棄をすれば、可分債務を含めた一切の債務の相続を回避することができます。
    ただし、相続放棄は原則として、相続の開始を知った時から3か月以内に行う必要があります(民法第915条第1項)。
    期限が過ぎると、相続放棄が認められなくなる可能性があることに注意してください。

  4. (4)相続分の譲渡時には証書を作成すべき

    相続分を譲渡する際には、譲渡人・譲受人が共同で相続分譲渡証書(相続分譲渡証明書)を作成しましょう

    相続分譲渡証書には、相続分の譲渡が行われたことを明確化する役割があります。
    また、譲受人が参加する遺産分割について家庭裁判所に調停・審判を申し立てる際や、譲受人が参加した遺産分割に基づき不動産の相続登記を行う際、金融機関から譲受人が被相続人の預貯金を引き出す際などには、相続分譲渡証書を提出する必要があります(なお、金融機関の対応については、金融機関ごとに差があります)。

    相続分譲渡証書を作成する際には、以下の文例を参考にしてください。

    相続分譲渡証書

    甲は、乙に対し、2024年○月○日付で、被相続人亡△△ △△(2024年×月×日死亡)の相続について、甲の相続分全部を譲渡し、乙はこれを譲り受けた。

    本契約の締結を証するため、本書2通を作成し、甲乙それぞれ1通ずつを保管する。

    2024年○月○日

    甲:
    【住所】
    (署名)  実印

    乙:
    【住所】
    (署名)  実印
  5. (5)相続分の譲渡は、他の相続人へ事前に伝えるべき

    相続分の譲渡を勝手に行うと、他の相続人が混乱してしまいます。
    他の相続人には相続分の取戻権が認められていますが(民法第905条第1項)、その行使期間は1か月以内です(同条第2項)。
    1か月の期間がいつから起算されるかについては見解が分かれていますが、最短では相続分が譲渡された時から1か月で取戻権が消滅するという見解が通説となっています(前述)。

    取戻権が行使できなくなれば、他の相続人は見ず知らずの第三者と遺産分割協議を行うことを余儀なくされます。
    そのため、勝手に相続分を譲渡した人は、他の相続人から非難されたり嫌われたりしてしまう可能性があるでしょう。
    よほど他の相続人との関係性が悪い状態の場合は別として、一般的には、他の相続人に迷惑をかけないように、相続分を譲渡する旨はあらかじめ連絡しておくべきです

4、相続分の譲渡は弁護士に相談を

相続分の譲渡については、注意すべきポイントがたくさんあります。
また、同じく相続権を辞退する方法である相続放棄についても、選択肢として検討を行う必要があります。

相続分の譲渡に関する法的検討は、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、状況に応じて注意すべきポイントを分析しながら、対応方針を分かりやすくアドバイスすることができます。
「遺産相続に関わりたくない」と考えている方や「相続分の譲渡を不安のないかたちで行いたい」と希望されておる方は、お早めに弁護士に相談してください。

5、まとめ

相続分の譲渡が行われた場合、譲渡人の代わりに譲受人が遺産分割協議に参加することになります。
ただし、相続分を譲渡しても可分債務の支払義務は残るほか、見ず知らずの第三者に相続分を譲渡すると他の相続人と譲受人の間でトラブルが生じるリスクが高い点などに注意が必要になります。
相続放棄という選択肢もあるため、相続分の譲渡とどちらがよいか、具体的な状況に応じた比較や検討を行うことが大切です。

ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております
相続分の譲渡をご検討中の方や、そのほか遺産相続について何らかの懸念点がある方は、まずはベリーベスト法律事務所 沼津オフィスにご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています