保護命令とは? 要件や申し立てる流れ、認められないケースを解説
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静岡市が公表している令和5年度の統計情報によると、令和4年に離婚した夫婦の件数は951件でした。夫婦が離婚する原因はさまざまですが、なかには「配偶者からの暴力」、いわゆる「DV」などを理由に離婚する方も少なくありません。
「配偶者からのDVから逃れたい」という方を保護する制度として“保護命令”があります。保護命令が認められれば、接近禁止命令や退去命令、電話禁止命令等が発せられ、違反すると懲役や罰金(2年以下の懲役又は200万円以下の罰金)が科せられます。
保護命令の概要や申し立ての流れについて、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説していきます。
1、保護命令とは
配偶者からDVを受けている人を守る「保護命令」はどういう制度なのでしょうか。制度の内容や保護命令の種類、期間について解説していきます。
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(1)保護命令とは何か
「保護命令」は、配偶者(内縁関係も含む)や生活の本拠を共にする交際相手から身体への暴力や、生命、身体、自由、名誉、財産に対する脅迫を受けた被害者が、さらに暴力や脅迫により心身に重大な危害を受けることを防ぐことを目的にした制度です。被害者が裁判所に申し立てることで、「暴力を振るった」あるいは「生命、身体、自由、名誉、財産に対して脅迫をした」加害者に対して近づくなどしないように命令を出してもらうことができます。命令にはいくつか種類があるため、次に詳しくみていきましょう。
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(2)保護命令の種類
保護命令は6種類あります。
- ① 被害者への接近禁止命令
- ② 被害者への電話など禁止命令
- ③ 被害者の子への接近禁止命令
- ④ 被害者の子への電話など禁止命令
- ⑤ 被害者の親族などへの接近禁止命令
- ⑥ 退去等命令
②から⑤までの命令は、①の命令の実効性を確保するための付随的な制度のため、①の命令と同時か、①の命令が出た後にのみ発令されます。
それでは6種類の命令の内容をみていきましょう。
① 被害者への接近禁止命令
被害者へのつきまといや、被害者の住所・勤務先などの付近をはいかいすることを禁止する命令です。
② 被害者への電話など禁止命令
①の命令が発令されている間、次の行為をいずれも禁止します。- 面会を要求すること
- 行動を監視していると思わせるような事項を告げ、または知り得る状態に置くこと
- 著しく粗野または乱暴な言動をすること
- 無言電話をしたり、緊急ではないにもかかわらず連続して電話をかけたり、ファクシミリ、電子メールを送ったりすること
- 緊急でやむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に電話をかけたり、ファクシミリ、電子メールを送ったりすること
- 汚物や動物の死体その他の著しく不快または嫌悪の情を催させる物を送付し、または知り得る状態に置くこと
- 名誉を害する事項を告げ、または知り得る状態に置くこと
- 性的羞恥心を害する事項を告げ、もしくは知り得る状態に置き、または、性的羞恥心を害する文書や図画その他の物を送付し、もしくは知り得る状態に置くこと
- 承諾を得ずにGPSで位置情報を取得したり、GPS装置を被害者の持ち物に承諾を得ずに設置したりすること
③ 被害者の子への接近禁止命令
①の命令が発令されている間、被害者と同居している未成年の子どもの身辺につきまとったり、住所や学校など子どもが通常いる場所の付近をはいかいしたりすることを禁止する命令です。
この命令は、加害者が子どもを連れ去るおそれがあるなど、被害者が子どもを守るために加害者に会わざるを得ない状況で危害を加えられることを防ぐために発せられます。
ただし、子どもが15歳以上の場合は子どもの同意が必要です。
④ 被害者の子への電話など禁止命令
①の命令が発令されている間、被害者と同居している未成年の子どもに対する②と同様の行為が禁止されます。2023年5月に成立したDV防止法の改正法により新しく追加された項目です(施行は2024年4月1日)。
⑤ 親族などへの接近禁止命令
①の命令が発令されている間、被害者の親族その他被害者と社会生活で密接な関係を持つ者(以下親族など)の身辺につきまとったり、住所や勤務先など通常いる場所の付近を徘徊(はいかい)したりすることを禁止します。
この命令は、加害者が被害者の親族などの住居に押し掛けて著しく粗野または乱暴な言動を行っているなどから被害者が加害者に会わざるを得ない状況で危害を加えられることを防ぐために発せられる命令です。
また、この命令が出されるのは、親族など(15歳未満である場合を除く)の同意がある場合に限られます。
⑥ 退去命令
加害者に対して、「同居している家からの退去」と、「その家の付近の徘徊の禁止」を命じるのが退去命令です。 -
(3)保護命令の期間
上記①から⑤の接近禁止命令の期間は、2024年4月1日のDV防止法の改正法施行によってそれまでの「6か月間」から「1年間」に延長されました。
また、退去命令の期間は原則、改正前と同様の「2か月間」ですが、改正法施行により例外が設けられました。住居の所有者または賃借人が被害者のみの場合は、申し立てによって「6か月間」に延長できるようになったのです。
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2、保護命令が認められる要件と申し立ての流れ
保護命令が認められるには2つの要件があります。2つの要件の内容と保護命令の申し立ての流れをみていきましょう。
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(1)保護命令が認められる要件
保護命令が認められるためには以下の2つの要件を満たす必要があります。
① 配偶者から「身体に対する暴力」または「生命、身体に対する脅迫」または「自由、名誉もしくは財産に対する脅迫」を受けたこと
簡潔にいうと、保護命令を申し立てるためにはまず、「これまでに配偶者から暴力や暴言を受けた」という要件を満たす必要があるということです。
2024年4月の改正法施行以前は、申し立ての権利者が、配偶者から「身体に対する暴力」または「生命、身体に対する脅迫」を受けた者に限られていました。しかし、改正法施行によって、「自由、名誉または財産に対する脅迫」を受けた、つまり精神的暴力を受けた被害者も保護命令を申し立てる権利者に追加されたのです。
② 今後も暴力や脅迫を受ける可能性があり、それによって生命や心身に重大な危害を受けるおそれが大きいこと
「過去」の事実のことである①に対して、②は「将来」の可能性のことで、①と比べて立証が難しくなります。
たとえば、「もう接近しない」という誓約書を交わした場合、裁判所に「将来危険な目にあう可能性が低い」と判断されて保護命令を出してもらえなくなるケースもあるのです。
「将来危険な目にあう可能性が高い」と裁判所に判断してもらうためには、「過去約束を繰り返し破られており、もうやらないといった暴力を何度も振るわれた」というような事実を立証する必要があるでしょう。 -
(2)保護命令の申し立ての流れ
保護命令の申し立ての流れは以下のとおりです。
① 警察または配偶者暴力相談支援センターに相談する
保護命令を申し立てるためには、事前に暴力、脅迫被害について警察または配偶者暴力相談支援センターに相談する必要があります。まずはお近くの警察または配偶者暴力相談支援センターに相談に行きましょう。
保護命令の申立書には、上述の相談機関に相談した事実を記載しなければなりません。事前に相談機関に相談をしていないときは、相手方から暴力を受けた状況等の事実を記載した宣誓供述書(公証人役場において公証人の面前でその記載が真実であると宣誓したうえで署名捺印をした証書)が必要になります。そのため、相談機関に事前の相談をしてください。
② 地方裁判所へ保護命令を申し立てる
以下のいずれかの地方裁判所に対して、保護命令の申し立てを行います。- 加害者(相手方)の住所または居所を管轄する地方裁判所
- 被害者(申立人)の住所または居所を管轄する地方裁判所
- 加害者(相手方)による暴力または脅迫が行われた地を管轄する地方裁判所
③ 申立人(被害者)の審尋
申立てが受理されると、まず行われるのが「申立人の審尋」です。担当裁判官と面談して事情を説明する手続きのことを「審尋」といいます。
④ 相手方(加害者)の審尋
申立人の審尋が行われた後、相手方の審尋期日が原則約1週間後に指定されます。期日に相手方への審尋が行われた後、裁判所が双方の意見や証拠を検討した上で保護命令を発令するかどうか決定するのです。
⑤ 保護命令の発令
保護命令を発令すべきと裁判所に認められた場合、保護命令が発令されます。発令されると、当事者や申立人の住所または居所を管轄する警察にその内容が知らされ、相手方が接近禁止命令を無視して接触してきたような場合に対応してもらえるようになるのです。
3、保護命令が認められないケースと対処法
保護命令が裁判所によって認められないケースとその場合の対処法をいくつかご紹介します。
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(1)保護命令が認められないケース
保護命令が認められるためには前述した2つの要件を満たす必要があり、逆にいえば要件を満たさないようなケースでは保護命令は認められません。2つの要件を簡潔にすると「DVや脅迫をされたこと」「今後もDVや脅迫を受けるおそれがあること」です。この2つの要件を満たさない、以下のケースでは保護命令が認められない可能性が高いでしょう。
① DVや脅迫が認められない
保護命令を出してもらうためには、裁判官に対して、以下のような証拠を元にDVや脅迫が行われたことを証明する必要があります。- 医師の診断書や怪我の画像
- 脅迫されている場面での録画や録音
このような証拠がなく、DVや脅迫が行われた事実を証明できなかった場合は裁判官に保護命令を認めてもらえない可能性が高いでしょう。
② 今後はDVや脅迫が発生しそうにない
過去DVや脅迫が行われていたとしても、今後も受けるとは限りません。相手方と誓約書をすでに交わしてつきまとわない約束をしているようなケースでは、今後はDVや脅迫を受ける可能性がないと裁判官に判断されて保護命令が認められない場合があるでしょう。 -
(2)保護命令が認められない場合の対処方法
保護命令が認められず不服がある場合、「即時抗告」を申し立てることができます。即時抗告は「1週間」という短い期間内に行わなければなりません。
どうすれば1度却下された保護命令を認めてもらえるのか、有効な証拠を再度洗い出し、危険性等を立証するためには、弁護士にサポートを求めたほうが良いでしょう。また、準備や裁判の進め方にも弁護士のアドバイスが役立つでしょう。
4、別居をしながら離婚手続きを進める方法とは
別居できたとしても、その後どのように離婚手続きを進めればいいのでしょうか?
離婚をするための方法は3つあります。「離婚協議」「離婚調停」「離婚裁判」です。
「離婚協議」は夫婦で離婚についての話し合いを行い、合意に至れば離婚が成立します。話し合いが決裂して離婚協議が成立しなかった場合に行うのが「離婚調停」です。家庭裁判所に申し立て、調停委員と裁判官を交えて離婚について話し合いを行います。離婚調停が成立しなかった場合は「離婚裁判」を起こし、裁判官によって離婚について判断を下されるのです。
ご自分で手続きを進めることも可能ですが、相手と直接顔を合わせたくない場合や手続きに不安があるような場合、弁護士に依頼すれば代理で協議や調停を進めることができます。
その他にも、保護命令の手続きや離婚に必要なお金の算出、慰謝料の計算など弁護士に相談できることは多岐に渡りますので、離婚に際してお困りのことがありましたら、まずは弁護士にご相談ください。
5、まとめ
保護命令を申し立てるためにはまず、警察または配偶者暴力相談支援センターに相談しなければなりません。相談機関への事前の相談をしていない場合、公証人役場で宣誓供述書を作成する必要があります。相談機関への事前の相談をしておらず、宣誓供述書の添付もないと申立てをしても保護命令が発令されないことになりますので注意しましょう。
またご自分の状況が保護命令を申し立てられるかご不安な場合や、離婚を検討されている場合は、早期に弁護士に相談することをおすすめします。ひとりで悩まずに、まずはベリーベスト法律事務所 沼津オフィスにご連絡ください。
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