36協定は管理職にも適用される? 残業のルール

2024年08月14日
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36協定は管理職にも適用される? 残業のルール

令和5年に静岡労働局が発表した資料「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)を公表します」によると、令和4年度に静岡県内の労働基準監督署で取り扱った賃金不払い事案の件数は484件でした。

賃金不払いの理由はさまざまですが、管理職だからという理由で残業代が支払われていないというケースがあります。管理職には残業代を支払う必要がなく、36協定も適用されないという立場をとる会社は少なくありません。しかしこのような主張は、労働基準法上必ずしも正しいとはいえません。なぜなら、管理職が必ずしも『管理監督者』にあたるとは限らないからです。

管理監督者にあたらないにもかかわらず、「管理職だから」と36協定の上限を超える残業や休日出勤を指示されている場合は、労働基準法違反の疑いがあります。弁護士のアドバイスを受けながら、会社に対して不適切な取り扱いの是正を求めましょう。

本記事では、そもそも36協定とは何か、管理職に適用されるのかどうかについて、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。


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1、36協定とは

「36協定」とは、時間外労働および休日労働に関するルールを定めた労使協定です。

  1. (1)36協定の目的|時間外労働・休日労働の制限

    36協定の目的は、時間外労働および休日労働に関するルールを設け、長時間労働の抑制を図ることです

    労働時間が長くなりすぎると、脳疾患・心臓疾患・精神疾患など健康面のリスクが高くなるとされています。
    しかし、会社の指示を断ることができず、慢性的な長時間労働を強いられる労働者は少なくありません。会社から支払われる賃金で生計を立てている労働者は、会社に比べて立場が弱いためです。

    そこで労働基準法では、労働時間の上限(法定労働時間)を原則として「1日当たり8時間・1週間当たり40時間」と定めました(労働基準法第32条) 。
    さらに原則として、使用者が労働者に対して週1日の休日(=法定休日)を付与することを義務付けています(同法第35条)。

    使用者が労働者に対して、法定労働時間を超える労働(時間外労働)または法定休日の労働(休日労働)を指示するためには、36協定を締結しなければなりません(同法第36条第1項)。
    また、時間外労働および休日労働の時間数などについては、36協定で定められたルールを遵守する必要があります。

  2. (2)36協定で定めるべき内容

    36協定には、以下の内容を定めるものとされています(労働基準法第36条第2項、労働基準法施行規則第17条)。

    36協定に定めるべき事項(特別条項以外)
    • ① 時間外労働または休日労働をさせることができる労働者の範囲
    • ② 時間外労働または休日労働をさせることができる期間(=対象期間。1年間に限る)
    • ③ 時間外労働または休日労働をさせることができる場合
    • ④ 対象期間において、時間外労働をさせることができる時間、または休日労働をさせることができる休日の日数(1日当たり・1か月当たり・1年当たり)
    • ⑤ 36協定の有効期間
    • ⑥ 対象期間の起算日
    • ⑦ 1か月における時間外労働および休日労働の時間の合計を100時間未満とする旨
    • ⑧ 2か月・3か月・4か月・5か月・6か月の各期間において、時間外労働および休日労働の平均合計時間が80時間を超えないようにする旨

    36協定に基づく時間外労働は、原則として1か月当たり45時間以内、かつ1年当たり360時間以内としなければなりません(同法第36条第3項・第4項)。

    ただし例外的に、36協定に特別条項を定めてその内容に従う場合には、限度時間を超える時間外労働を指示できます(同条第5項・第6項)。

    36協定に定めるべき事項(特別条項)
    • ⑨ 限度時間を超えて労働させることができる場合
    • ⑩ 限度時間を超えて労働させる労働者に対する、健康・福祉を確保するための措置
    • ⑪ 限度時間を超えた労働に係る割増賃金の率
    • ⑫ 限度時間を超えて労働させる場合における手続き

    特別条項を適用する場合も、無制限に労働を指示することはできず、以下の規制を遵守する必要があります。

    • 1年間の時間外労働の時間数:720時間以内
    • 1か月における時間外労働および休日労働の時間の合計:100時間未満
    • 2か月・3か月・4か月・5か月・6か月の各期間における時間外労働および休日労働の平均合計時間:80時間以内
    • 月45時間の超過が認められる月数:年6か月以内
  3. (3)36協定が適用される労働者

    36協定が適用されるのは、該当する事業場において雇用されている労働者です。36協定は事業場ごとに締結し、各事業場を管轄する労働基準監督署に届け出る必要があります。

    ただし、労働時間および休日に関する規定がいずれも適用されない労働者には、36協定が適用されません。
    36協定の対象外となる労働者の代表例が「管理監督者」です

2、36協定が管理職にも適用されるケースはあるのか?

「管理職だから36協定は適用されない」という考え方のもと、管理職の労働者に毎月長時間にわたる残業を課す会社もあります。
しかし、すべての管理職が36協定の対象外であるとは限りません。実際には「名ばかり管理職」に過ぎず、36協定が適用されるケースもあります。

  1. (1)「管理監督者」には労働時間の規制が適用されない|36協定も適用なし

    労働者のうち、監督または管理の地位にある者のことを「管理監督者」といい、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されません(労働基準法第41条第2号)。
    したがって、管理監督者に対しては36協定が適用されないのです。

  2. (2)管理監督者の要件|管理職が該当するとは限らない

    ただし、「管理職=管理監督者」ではありません。実際には多くの企業において、管理職が管理監督者にはあたらない立場にいると考えられます。

    管理監督者にあたるのは、経営者と一体的な立場にある労働者のみです。経営者と一体的な立場にあるかどうか(=管理監督者性の有無)は、次の要素から総合的に判断します

    • ① 職務内容が重要であること
    • ② 重要な責任を負い、権限を有していること
    • ③ 勤務態様が労働時間の規制になじまないこと
    • ④ 管理監督者にふさわしい待遇が与えられていること


    「店長」「課長」「係長」などの役職がつき、社内においては管理職と呼ばれる立場だったとしても、部下の人事権を持たず、賃金などの待遇も一般の労働者と大差ないケースが多いです。
    このようなケースでは、管理職であっても管理監督者には該当せず、一般の労働者と同様に36協定が適用されます。

  3. (3)「名ばかり管理職」が問題になった裁判例

    経営者と一体的な地位にないにもかかわらず、管理監督者にあたるものとして残業代が支払われず、36協定も適用されないものとされている労働者は「名ばかり管理職」ともいわれます。

    東京地裁平成20年1月28日判決の事案では、大手飲食チェーンの店長が、会社に対して未払い残業代を請求しました。
    東京地裁は、店長の職務や権限が狭く限定されている点、労働時間に関する実質的な自由裁量が認められない点、賃金が管理監督者にふさわしい十分な水準とはいえない点などを指摘し、会社に対して約750万円の残業代の支払いを命じました。

    上記の事案は、「名ばかり管理職」の問題が社会的に広く知られるきっかけとなりました。

    「管理職だから」という理由で、実態に伴わないにもかかわらず残業代の未払いや長時間労働などの不当な待遇を受けている方は、ご自身が「名ばかり管理職」である可能性を疑いましょう。

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3、管理監督者であっても、深夜手当は支払う必要がある

管理監督者にあたる場合は、労働時間や休日に関する規制が適用されないため、時間外手当と休日手当の支払いは不要です。

これに対して、午後10時から午前5時までの労働に対して支払われる深夜手当については、管理監督者に対しても支払う必要があります(最高裁平成21年12月18日判決)。
「管理職だから」という理由で、深夜手当が一切支払われていない場合は、未払い残業代が発生している可能性があります。

4、管理職の未払い残業代請求は弁護士に相談を

管理職の方が、会社に対して未払い残業代を請求する際には、弁護士への相談をおすすめします。

労働問題について豊富な経験を有する弁護士に相談すれば、ご自身の立場が管理監督者にあたるのか、もしくは名ばかり管理職にあたるのかを判断したうえで、残業代を支払う必要があることの法的根拠を確認してもらえます。
また、勤怠管理システムの記録など残業時間に関する証拠の収集方法についても、具体的なアドバイスを受けられます。

複雑な未払い残業代計算から請求まで弁護士に一任できるため、労力やストレスが大幅に軽減されるほか、適正額の未払い残業代を回収できる可能性が高まります。

未払い残業代請求を検討している管理職の方は、お早めに弁護士へご相談ください

5、まとめ

労務管理・勤怠管理についてのルールを誤解し、管理職には一律で残業代を支給しない、36協定も適用しないという運用をしている会社は少なくありません。

しかし管理職であっても、管理監督者にあたらない場合は残業代の発生はもちろん、36協定も適用されます。「管理職だから」という理由で残業代が支払われず、長時間労働を強いられている方は、すぐに弁護士へ相談しましょう。

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