ドライバー職で適用される時間外労働の上限規制|未払い残業代請求法

2024年11月06日
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ドライバー職で適用される時間外労働の上限規制|未払い残業代請求法

静岡県が公表している統計資料によると、令和6年の沼津市内における自動車保有台数は、16万1751台でした(令和6年10月時点)。静岡県内では、4番目に多い数字となっています。

トラックドライバーなどの運送業は、長時間労働が常態化しがちな業種です。働き方改革によって月45時間・年360時間という時間外労働の上限が定められましたが、トラックドライバーについては上限規制の適用が猶予されていました。しかし、令和6年4月1日からトラックドライバーに対しても時間外労働の上限が適用されています。「2024年問題」として多くのニュースでも取り上げられています。

今回は、トラックドライバーに適用される時間外労働の上限規制と未払い残業代の請求方法について、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。


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1、ドライバーの時間外労働規制とは?

改正によって、時間外労働の上限規制はどのように変わったのでしょうか。まずは、ドライバーの時間外労働規制の概要を説明します。

  1. (1)【改正後】ドライバーの時間外労働の上限規制|令和6年4月1日から適用

    労働基準法の改正により、ドライバーに対して新しい時間外労働の上限規制が適用されています。

    • 原則として、月45時間、年360時間以内
    • 臨時的にこれを超える必要がある場合でも年960時間以内


    すなわち、特別条項付きの36協定を締結することで、年960時間までの時間外労働が可能ということになります

    また、ドライバーに対しては労働時間と休憩時間を合わせた拘束時間、運転時間、勤務間のインターバル(休息期間)などを規制する改善基準告示が適用されますが、これらについても令和6年4月から新しくなりました。

    • 1日の拘束時間:13時間を超えないことを原則とし、最大でも15時間
    • 1年の拘束時間:年3300時間以内
    • 1か月の拘束時間:月284時間以内
    • 1日の休息期間:11時間以上を基本とし、9時間を下回らない
    • 運転時間:2日平均1日9時間以内


    参考:「建設業・ドライバー・医師の時間外労働の上限規制 特設サイト」(厚生労働省)

  2. (2)【改正前】ドライバーの時間外労働の上限規制|令和6年3月31日まで

    改正前は、ドライバー職に法律上の時間外労働の上限規制はありませんでした。そのため、36協定を締結・届け出することで事実上無制限に残業ができていたのです。

    改善基準告示より一定の制限が設けられていましたが、改善基準告示は法律ではありませんので、違反したとしても罰則は適用されませんでした。

    • 1日の拘束時間:13時間を超えないことを原則とし、最大でも16時間
    • 1年の拘束時間:3516時間
    • 1か月の拘束時間:月293時間以内
    • 1日の休息時間:継続8時間以上
    • 運転時間:2日平均1日9時間以内
  3. (3)時間外労働に関する法改正の理由と影響

    ドライバーは業務の性質上拘束時間が長く、長時間労働が常態化していることが、深刻な社会問題となっていました。このような長時間労働を改善するために、時間外労働の上限規制が設けられることになったのです。

    働き方改革により、大企業は平成31年4月1日から、中小企業は令和2年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されています。しかし、ドライバー職はすぐに対応するのが難しいことを考慮して、5年間は時間外労働の上限規制の適用が猶予されていました。
    猶予期間は終了したため、令和6年4月1日からドライバー職も時間外労働の上限規制が適用されています

    ただ、働き方の改善が期待される一方で、次のような影響が生じる可能性もあると考えられています。

    • ドライバーの労働時間の減少
    • ドライバーの収入の減少
    • 運送業者の売り上げや利益の減少による、残業代の未払い

2、ドライバーが残業代請求を行える条件

今後、ドライバー職の働き方の改善が期待されますが、改正後も時間外労働をすれば残業代が発生するのは変わりありません。

残業代が支払われていない、未払いの残業代があるといった場合に、企業に対して残業代を請求するためには、3つの条件を満たす必要があります。

  1. (1)労働者に該当すること

    ドライバーが会社に対して残業代を請求するためには、ドライバーが労働基準法上の「労働者」に該当する必要があります。雇用ではなく請負(業務委託)として働いている場合には、残業代請求をすることはできません。

    ただし、労働基準法上の「労働者」に該当するかどうかは、契約内容ではなく次のような労働実態を踏まえて判断します。

    • 業務遂行上の指揮監督
    • 時間的、場所的拘束性
    • 仕事の依頼や業務指示に対する諾否の自由
    • 労務提供の代替性
    • 報酬の性質


    会社から「請負契約だから残業代は出ない」と言われたとしても、労働者に該当するケースもあります

  2. (2)固定残業代として想定されている残業時間を超えていること

    時間外労働の多いドライバーには、固定残業代制が採用されているケースが少なくありません。固定残業代制とは、実際の残業時間にかかわらず、毎月一定時間分の固定残業代を支払う制度です。固定残業代は基本給に組み込まれていたり、手当の形で支給されていたりする場合があります。固定残業代制度は賃金規定や雇用契約書等で確認する必要があります。

    固定残業代制を採用している場合、想定されている残業時間分については給与とあわせて支払われているので、別途残業代を請求することはできません。
    しかし、固定残業代として想定している時間を超えて残業をしている場合には、超過分について残業代を請求できます
    また、会社が固定残業代制度を導入していても、法的に固定残業代制度の有効要件を満たしていない場合には固定残業代制度が無効になる場合があります。一般的には割増賃金に該当する部分が明確に区分されて合意されていることや、固定残業代とされた賃金が時間外労働としての実質を有することが必要であるとされています。

  3. (3)残業を立証できること

    残業をした場合に、それに応じた賃金を請求するのは労働者として当然の権利です。しかし、実際には残業したことを証拠により立証できなければ、残業代の請求は認められません。
    つまり、残業を立証できることも残業代請求の条件です。

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3、残業代請求の手順と留意すべきポイント

残業代請求をするための具体的な手順と、請求にあたって留意すべきポイントを解説します。

  1. (1)残業代請求の手順

    残業代の請求方法について、順を追って確認していきましょう。

    ① 残業に関する証拠収集
    まずは、残業時間に関する証拠を集めることが重要です。
    ドライバー職の場合は、次のようなものが残業時間に関する証拠として認められます。

    • タイムカード
    • タコグラフ
    • 運転日報
    • 高速道路の利用履歴
    • 車載カメラの映像
    • アルコール検知記録
    • 勤怠管理システムのデータ


    ② 残業代の計算
    残業時間に関する証拠を集めたら、次は未払い残業代を計算します。

    残業代は、計算式にあてはめることで算出できますが、労働者が正確に算出するのは簡単なことではありません。まして、固定残業代制や歩合制などが採用されている場合は、一般的な残業代計算よりも複雑です。誤った認識で残業代を算出してしまうと、企業側から反論されてしまうなど、残業代請求が失敗してしまう可能性もでてきます。
    そのため、弁護士に相談し、正確かつ迅速に残業代を算出してもらえるようにサポートしてもらうことをおすすめします

    ③ 内容証明郵便の送付
    残業代請求の方法は、配達証明付きの内容証明郵便を利用して、書面で残業代請求の通知を送るのが一般的です。

    普通郵便だと「そんな通知は届いていない」などとして、支払いを拒まれてしまうおそれがありますが、配達証明付きの内容証明郵便であれば、いつ、どのような文書が届いたのかを証明することができます。

    ④ 会社との交渉
    会社が内容証明郵便を受け取ると、社内で未払い残業代の有無や金額を確認して、労働者側に何らかの回答を行うはずです。その回答を踏まえて、会社との交渉を進めます。話し合いにより解決に至ったときは、必ず合意書などの書面を作成しましょう

    ⑤ 労働審判・訴訟
    会社との話し合いで解決できないときは、労働審判や訴訟の手続きを利用します。これらの手続きは、弁護士のサポートを受けながら進めていくのがよいでしょう。

  2. (2)残業代請求にあたって留意すべきポイント

    残業代請求には時効があります。具体的な時効期間は、残業代の発生時期によって、異なります。

    • 令和2年4月1日以降に発生した残業代:3年
    • 令和2年3月31日以前に発生した残業代:2年


    残業代請求の時効が経過すると残業代を請求できないため、早めに行動することが大切です。

4、労基署と弁護士、どちらに相談すべきか

残業代の相談先として、労働基準監督署と弁護士が比較されることが多いですが、どのような違いがあるのかを説明します。

  1. (1)労働基準監督署

    労働基準監督署とは、企業が労働基準法などの法令に違反しないよう指導・監督する行政機関です。

    残業代の未払いは労働基準法違反です。労働者から残業代の未払いに関する相談があれば、労働基準監督署は事業所の調査を行い、違反の事実確認を行います。その結果、労働基準法違反が明らかになれば、指導や勧告により違反状態の改善を命じます。

    ただし、労働基準監督署の指導・勧告には強制力がないため、会社側が任意に従わない場合には実効性はありません。また、あくまでも企業に対しての指導や勧告にとどまり、個人のケースごとに、残業代請求をサポートしてくれるわけではないということを心得ておきましょう。

  2. (2)弁護士

    弁護士は、残業代の未払いなどのあらゆる労働問題を扱うことができる法律の専門家です。
    弁護士に依頼すれば、労働者の代理人として会社との交渉や労働審判、訴訟の代理人を担当してもらうことができます。

    労働基準監督署は労働者の代理人として会社と交渉することはできず、アドバイスをするにとどまります。そのため、ご自身で会社と交渉するのが不安だという方は、弁護士に相談するのがおすすめです。

5、まとめ

令和6年4月1日から、ドライバーの方にも時間外労働の上限規制が適用されています。これまで長時間労働で悩んでいたドライバーの方も時間外労働の上限規制が適用されることで、労働環境もある程度改善されるでしょう。

ただし、時間外労働に対して残業代が発生するのには変わりありません。未払い残業代の問題を抱えているドライバーの方は、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています