労基署も逮捕権を持つって本当? 相談するにはどうすればいい?
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令和3年度に静岡県内の総合労働相談コーナー等に寄せられた労働関係の相談は全3万3511件でした。
労働基準監督官には、労働基準法に違反した者を、裁判所の令状に基づき逮捕する権限が与えられています。会社で労働基準法違反が横行している場合には、労働基準監督署に対して申告することが解決策のひとつとなるでしょう。
本コラムでは、労働基準監督官(労働基準監督署)に与えられている逮捕権等の権限内容や、労働問題に関する相談窓口などについて、ベリーベスト法律事務所 沼津オフィスの弁護士が解説します。
1、労働基準監督官には逮捕権がある
労働基準監督官には、労働基準法および労働安全衛生法に基づき、これらの法律に違反した者を逮捕する権限が与えられています。
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(1)労働基準監督官は司法警察職員としての職務を行う
労働基準監督官は、労働基準法および労働安全衛生法の規定に違反する罪について、刑事訴訟法の規定による司法警察職員の職務を行うものとされています(労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条、刑事訴訟法190条)。
司法警察職員としての職務権限には、逮捕状に基づき被疑者を逮捕することも含まれています(刑事訴訟法第199条第1項)。
実務上も、労働基準法および労働安全衛生法の規定に違反する罪については、警察官ではなく労働基準監督官が逮捕を行うことになっているのです。
また、労働基準監督官は、一般の司法警察職員と同様、逮捕のほか捜索差押え等をすることができます。 -
(2)労働基準監督官の具体的な権限内容
労働基準監督官は、労働基準法および労働安全衛生法の規定に違反する罪について、司法警察職員として以下のような職務権限が与えられています。
- 勾引状、勾留状の執行(刑事訴訟法第70条第1項)
- 差押状、記録命令付差押状、捜索状の執行(同法第108条第1項)
- 勾引状、勾留状を執行する場合における住居等への立ち入り、被疑者または被告人の捜索(同法第126条)
- 被疑者に対する出頭要求、取調べ(同法第198条第1項)
- 逮捕状に基づく被疑者の逮捕(同法第199条第1項)
- 逮捕状の発付請求(同条第2項)
- 被疑者の緊急逮捕(同法第210条第1項)
- 被疑者の現行犯逮捕(同法第213条)
- 現行犯逮捕された被疑者の引き受け(同法第214条)
- 令状に基づく捜索差押、身体検査(同法第218条第1項)
- 捜索差押令状の発付請求(同条第4項)
- 身体検査令状の発付請求(同条第5項)
- 逮捕に伴う住居等への立ち入り、被疑者の捜索、物の捜索差押、検証(同法第220条第1項)
- 遺留物、任意提出物の領置(同法第221条)
- 参考人に対する出頭要求、取調べ等(同法第223条第1項)
- 鑑定処分等の請求(同法第224条第1項、第225条第2項)
- 告訴、告発を受けた際の調書の作成(同法第241条第2項)
- 捜査をした場合における書類、証拠物の検察官送致(同法第246条)
2、労働基準監督署が持つ労働基準法・労働安全衛生法に基づく職務権限
労働基準監督署(労働基準監督官)は、労働基準法・労働安全衛生法に基づく各種の職務権限を有しています。
労働基準法・労働安全衛生法違反が疑われる企業に対しては、労働基準監督署(労働基準監督官)が職務権限を行使して、その是正や処分に動く可能性があるのです。
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(1)労働基準法上の職務権限
労働基準法に基づき、労働基準監督署(労働基準監督官)には以下の職務権限が与えられています。
<労働基準監督署(長)の権限>- 厚生労働大臣が定める各種基準に関する、使用者に対する助言および指導(労働基準法第14条第3項、第36条第9項、第41条の2第5項)
- 強制貯金の禁止に違反する貯蓄金管理の中止命令(同法第18条第6項)
- 災害等による臨時労働を不適当と認めた場合における、事後的な休憩、休日の付与命令(同法第33条第2項)
- 未成年者に不利な労働契約の解除(同法第58条第2項)
- 労災に関する審査、事件の仲裁(同法第85条第2項)
- 法令または労働協約に抵触する就業規則の変更命令(同法第92条第2項)
- 附属寄宿舎の工事着手の差止命令、計画変更命令(同法第96条の2第2項)
- 附属寄宿舎の使用停止命令、変更命令等(同法第96条の3)
- 使用者または労働者に対する必要な事項の報告命令、出頭命令(同法第104条の2第1項)
<労働基準監督官の権限>- 臨検(立ち入り検査)(同法第101条第1項)
- 帳簿、書類の提出要求(同)
- 使用者、労働者に対する尋問(同)
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(2)労働安全衛生法上の職務権限
労働安全衛生法に基づき、労働基準監督署(労働基準監督官)には以下の職務権限が与えられています。
<労働基準監督署(長)の権限>- 安全管理者の増員命令、解任命令(労働安全衛生法第11条第2項)
- 各種措置を講ずべき者の指名(同法第30条第3項、第30条の2第3項、第30条の3第3項)
- 特定機械等の検査(同法第38条第3項)、検査証の交付(同法第39条)
- 違反事業者に対する作業停止命令、建設物等の使用停止命令、変更命令、その他労働災害を防止するため必要な事項の命令(同法第98条第1項)
- 労働災害発生の急迫した危険があり、かつ緊急の必要がある場合における作業停止命令、建設物等の使用停止命令、変更命令、その他労働災害を防止するため必要な事項の命令(同法第99条第1項)
- 事業者等に対する必要な事項の報告命令、出頭命令(同法第100条第1項、第2項)
<労働基準監督官の権限>- 立ち入り検査(同法第91条第1項)
- 関係者への質問(同)
- 帳簿、書類その他の物件の検査(同)
- 作業環境測定(同)
- 製品、原材料、器具の収去(同)
- 労働者の検診(医師のみ、同条第2項)
3、労働基準監督官に役員・従業員が逮捕されたらどうなる?
平成28年3月には、中国人技能実習生に適切な賃金を支払わず、労働基準監督署の調査も妨害したとして、縫製会社の社長と技能実習生受け入れ事務コンサルタントの2名が労働基準監督官に逮捕されました。
労働基準法・労働安全衛生法に違反して、労働基準監督官に逮捕勾留された場合には、検察官によって起訴・不起訴の判断がされるまで、最大23日間身柄拘束を受けます。仮に、正式起訴された場合、引き続き身柄拘束される可能性があります。実刑判決が下されると刑務所に収監されます。
逮捕勾留により身柄拘束された場合の不利益は図りしれません。もし、逮捕勾留された場合には、早期に弁護士に依頼し、早期に身柄解放に向けた活動を行っていくべきでしょう。
4、労働問題に関する相談窓口・相談時に準備すべきこと
従業員の方が労働法全般に関する問題に悩んでいる場合は、労働基準監督署または弁護士に相談しましょう。
労働基準監督署は、これまでに紹介したように、労働基準法・労働安全衛生法に基づく各種の規制権限を有しています。
会社全体で労働基準法・労働安全衛生法違反が横行しており、その是正を求めたい場合には、労働基準監督署に相談することをおすすめします。
ただし、労働基準監督署はあくまでも行政官庁であるため、労働者の代理人として行動してくれるわけではありません。
弁護士は、協議・労働審判・訴訟などの手続きを通じて、労働者の方の権利回復をサポートいたします。
そのため、未払い残業代の請求など、会社に対して直接に請求を行いたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
なお、労働基準監督署や弁護士に相談する際には、会社による法律違反の内容・経緯をまとめたメモに加えて、違反の証拠をできる限り準備しておきましょう。
どのような証拠を準備すればよいかわからない場合には、事前に弁護士に連絡すればアドバイスを得ることができます。
5、まとめ
労働基準監督官には、労働基準法・労働安全衛生法に違反した者を逮捕する権限が与えられています。
会社による労働法違反の行為に悩んでいる従業員の方は、違反行為について労働基準監督署に報告を行いましょう。
会社の責任を直接に追及する際には、労働基準監督署ではなく弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、経験豊富な弁護士が、労働者の方の権利を回復するため親身になってサポートいたします。
労働問題にお悩みの従業員の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています